side 暉 28歳 4月

3/11
前へ
/118ページ
次へ
「懐かしいね、ここ」  文緒さんも嬉しそうに店内を見回す。 「私、いつものにする」 「俺も、にしよう」  この店ではそれぞれ食べたいメニューが決まっていて、お互いに別のものを注文する。そういえば来ていなかったな、懐かしい。  思ってもいなかった展開。昔に戻った様な感覚で、少し幸せな気分に浸っていた。  そうだった。なにか話したい事が……。 「話ってなに?」 「え、今話す?」 「〝話がある〟とか、文緒さんに言われると怖いから。いい話?悪い話? 気になる」  そう言うと、文緒さんは観念したように、「ごめん、悪い話」と言いながら、ニコリと微笑んだ。 「まぁね、美味しい食事を待っている間にする話でもないのですが」 「うん」 「私、病を患いまして」 「病?」  文緒さんがテーブルの上に何枚かの用紙を並べ始める。文緒さんの手書きの文字が書かれた数枚のメモ、というか説明書き、かなり事細かく書き込んである。 それから診断書のらしきものを見せられる。 「来週、再来週、入院、手術という流れで、治療が必要になりまして」 「……手術?」  全く考えてもいなかった事を言われ言葉が出ない。  文緒さんの、話なの? 今目の前で平然とした顔で頬杖ついている、文緒さん自身の事だよね?
/118ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2183人が本棚に入れています
本棚に追加