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「懐かしいね、ここ」
文緒さんも嬉しそうに店内を見回す。
「私、いつものあれにする」
「俺も、アレにしよう」
この店ではそれぞれ食べたいメニューが決まっていて、お互いに別のものを注文する。そういえば来ていなかったな、懐かしい。
思ってもいなかった展開。昔に戻った様な感覚で、少し幸せな気分に浸っていた。
そうだった。なにか話したい事が……。
「話ってなに?」
「え、今話す?」
「〝話がある〟とか、文緒さんに言われると怖いから。いい話?悪い話? 気になる」
そう言うと、文緒さんは観念したように、「ごめん、悪い話」と言いながら、ニコリと微笑んだ。
「まぁね、美味しい食事を待っている間にする話でもないのですが」
「うん」
「私、病を患いまして」
「病?」
文緒さんがテーブルの上に何枚かの用紙を並べ始める。文緒さんの手書きの文字が書かれた数枚のメモ、というか説明書き、かなり事細かく書き込んである。
それから診断書のらしきものを見せられる。
「来週、再来週、入院、手術という流れで、治療が必要になりまして」
「……手術?」
全く考えてもいなかった事を言われ言葉が出ない。
文緒さんの、話なの?
今目の前で平然とした顔で頬杖ついている、文緒さん自身の事だよね?
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