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「この間電話くれたのって、この事?」
「うん、そう、だから病院に聞きに行く時に暉君呼ぶべきか迷ってそれで――」
たしかに多忙な時期だったけれど、まさかそんな話だって知らないから。
「呼ぶべき、です。忙しいって言ったって、妻の命に関わる事より大事な仕事って何?」
「だから、命に関わらないし」
「文緒さんの身体のことだよ?」
「言ったら無理してでも来ようとするから」
「当り前でしょ、あなたの家族だよ、俺」
「あのーー、おまたせしました~」
店員の女性が申し訳なさそうに、不穏な空気漂う夫婦のテーブルに、注文したボルシチとハヤシライスをそっと置く。
「だから、今言ってるじゃない」
「そういう事じゃなくて──」
「もう、わかったよ。とりあえず食べよう。熱いうちに」
「……」
食べれないよ、もう。
混乱していた。
二重三重にショックで、なんかもう、胸なのか胃なのか本気で苦しくなってきたけれど、そんな俺の気持ちを今、一番不安に思っている文緒さん本人にぶつける訳にいかない。
なんでこうなるんだろうな。
どう言ったら通じるんだろう。
俺にもっと頼って欲しいとか、甘えてほしいとか、そういう次元の話じゃない。
文緒さんにとって俺はなに? 夫婦って?
思い出の店でいつものハヤシライスを食べる。味など勿論、わからない。
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