side 暉 28歳 4月

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「ごめん、遅くまでつき合わせて。文緒さん早く寝なくちゃ。睡眠ちゃんと取らないと」 「そんなね、今日明日でどうこうなる訳じゃないからね。あと三十分寝るのが遅くなったところで悪化するとかないから。寝るけど」  焦る俺を見て、また呆れるように笑う。 俺の事を余程心配性だと思っている。 「驚かせたね。ごめん、心配かけて」  申し訳なさそうに眉を下げた。 妻の病気にショックを受け、落ち込んでいる夫に見えるのだろう。 それはそうだが、それだけではない。 「大変なのは文緒さん自身だし、心配するのも当然だから、謝らないで?」 「暉君は大丈夫?」 「だからそれ、俺の台詞ですから」  それもそうかと笑った。  快活でおおらか、自分の事よりも人の事、だから周りからよく頼られる。そういう人だから、俺が近くに居て支えたい、寄り添いながら生きていきたいと思ったけれど、それがなかなか難しい。逞し過ぎて一人で、どんどん先に行ってしまう。支えるどころか足手纏いになっているのではと思えてくる。 「しかしあなたという人はほんとに……」 「なに?」 「最初に変だなと思った時に言ってくれたら良かったのに」 「ああそれ、一人でズーンとなっちゃって」 「一人でズーンと、じゃなくて」 「言えないよー、少しパニクってた」 「……」  今は、文緒さんの病気の事だけ考えよう。 言いたいことは多々はあるけれど、俺の感情はまず後回しだ。  会話の途中で、時計の針が0時を回り、 ピピッと音を立てた。 「日付変わった」 「あ、本当だ、寝ないと。俺風呂に入るから文緒さん先に寝てて……「ちがうって暉君、忘れてるでしょ!?」 「え?」 「四月三日だよ。お誕生日、おめでとう!」 「……ああ」  そうか。そうだった。 一昨日くらいまでは覚えていたのにな。  28回目の、俺の誕生日だった。
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