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「ごめん、遅くまでつき合わせて。文緒さん早く寝なくちゃ。睡眠ちゃんと取らないと」
「そんなね、今日明日でどうこうなる訳じゃないからね。あと三十分寝るのが遅くなったところで悪化するとかないから。寝るけど」
焦る俺を見て、また呆れるように笑う。
俺の事を余程心配性だと思っている。
「驚かせたね。ごめん、心配かけて」
申し訳なさそうに眉を下げた。
妻の病気にショックを受け、落ち込んでいる夫に見えるのだろう。
それはそうだが、それだけではない。
「大変なのは文緒さん自身だし、心配するのも当然だから、謝らないで?」
「暉君は大丈夫?」
「だからそれ、俺の台詞ですから」
それもそうかと笑った。
快活でおおらか、自分の事よりも人の事、だから周りからよく頼られる。そういう人だから、俺が近くに居て支えたい、寄り添いながら生きていきたいと思ったけれど、それがなかなか難しい。逞し過ぎて一人で、どんどん先に行ってしまう。支えるどころか足手纏いになっているのではと思えてくる。
「しかしあなたという人はほんとに……」
「なに?」
「最初に変だなと思った時に言ってくれたら良かったのに」
「ああそれ、一人でズーンとなっちゃって」
「一人でズーンと、じゃなくて」
「言えないよー、少しパニクってた」
「……」
今は、文緒さんの病気の事だけ考えよう。
言いたいことは多々はあるけれど、俺の感情はまず後回しだ。
会話の途中で、時計の針が0時を回り、
ピピッと音を立てた。
「日付変わった」
「あ、本当だ、寝ないと。俺風呂に入るから文緒さん先に寝てて……「ちがうって暉君、忘れてるでしょ!?」
「え?」
「四月三日だよ。お誕生日、おめでとう!」
「……ああ」
そうか。そうだった。
一昨日くらいまでは覚えていたのにな。
28回目の、俺の誕生日だった。
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