大学一年生・初夏~秋

1/9
2123人が本棚に入れています
本棚に追加
/118ページ

大学一年生・初夏~秋

 小学生の頃、嫌々習っていた水泳が、こんな形で役に立つとは思わなかった。 **  大学一年生の初夏。ようやく大学生活に慣れてきた頃、少し気になる人ができる。 同じ大学の同学年の彼とは講義でよく会う。話したことはないけれど、一度すれ違いざまにぶつかりそうになった時の、感じの良い〝すみません〟にときめいて、それ以来姿を見かけるとつい、意識がそちらに集中する。会えると嬉しいとか、そわそわ落ち着かないこの感じ。おおこれは恋の予感と期待して、頭の中はすでにほんのりピンク色だった。 「ぶつかりそうになった時ってそんな、漫画じゃあるまいし」 「いいでしょ別に。すごくいい人そうだと思ったんだもん。実際いい人と思う。多分」 「いや、いい人そうって言うよりも、モテるでしょうね、若槻君は。爽やかだし」 高校からの友人ミユキが呆れたように笑う。 「で、どうするの?」 「ん、何? どうするのって?」 「だから若槻君の事。気になるんでしょ? 告白するとかつき合いたいとか、ないの?」  ボーッとしてると肉食系女子に捕まえられちゃうよ、と、散々焚き付けてくるけれど、あまりピンとこない。 告白、おつき合い、ねぇ……。 「とりあえず、自分を磨いておこうか」  「は?」 「だって」  部活を辞めてから直ぐに受験シーズンに突入し、育ち盛り。程よく気の抜けた身体は、恋愛仕様ではないと思った。 「とりあえず-3キロ。少し引き締まって、顎の辺りがスッとしたら考える」  目標は分かり易い方がいい。  なにそれと笑われながら、自宅から歩いて10分、自転車なら5分もかからない距離の、市の屋内温水プールに通い始めた。
/118ページ

最初のコメントを投稿しよう!