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「あー。チョコ美味しー」
「………、」
何がしたいのか。浅倉君がわざとらしく声を張って味の感想を漏らす。
チラリと後ろを一瞥すると、なぜか自慢げな顔であたしを見る浅倉君と目が合う。
「チョコ美味しいよ。吉村」
「……そうですか」
「美味しいよ?」
「…そうですか」
「食べたい?」
「…いいえ」
首を横に振って否定を示した。あたしをチョコレートで釣ろうとしているらしい。
小学生じゃないんだからそれに引っかかるわけがないのに。
浅倉君は左手にまだ食べていないチョコレート1つを持っており、口の中に入っているチョコレートを食べながら目を細めた。
「……あのさ、なんでいきなりそんな余所余所しいわけ」
「……別に」
「…あー。洋平先輩に気遣ってるってことか」
「……、」
浅倉君にそう言われ、自分のこの言動は井槌さんへの配慮ということよりも、浅倉君と距離を詰めることの恥ずかしさ、それを感じることの回避の気持ちが強いことに気付く。
正直、今は自分のことで手一杯だった。井槌さんのことにまで頭が回らない。
「そんな態度とられると俺を嫌がってるように感じるんだけど」
あたしの気持ちなんて知る由もない浅倉君。嫌だなんて思ってませんが。
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