14.抱き締められる女

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「あー。チョコ美味しー」 「………、」 何がしたいのか。浅倉君がわざとらしく声を張って味の感想を漏らす。 チラリと後ろを一瞥すると、なぜか自慢げな顔であたしを見る浅倉君と目が合う。 「チョコ美味しいよ。吉村」 「……そうですか」 「美味しいよ?」 「…そうですか」 「食べたい?」 「…いいえ」 首を横に振って否定を示した。あたしをチョコレートで釣ろうとしているらしい。 小学生じゃないんだからそれに引っかかるわけがないのに。 浅倉君は左手にまだ食べていないチョコレート1つを持っており、口の中に入っているチョコレートを食べながら目を細めた。 「……あのさ、なんでいきなりそんな余所余所しいわけ」 「……別に」 「…あー。洋平先輩に気遣ってるってことか」 「……、」 浅倉君にそう言われ、自分のこの言動は井槌さんへの配慮ということよりも、浅倉君と距離を詰めることの恥ずかしさ、それを感じることの回避の気持ちが強いことに気付く。 正直、今は自分のことで手一杯だった。井槌さんのことにまで頭が回らない。 「そんな態度とられると俺を嫌がってるように感じるんだけど」 あたしの気持ちなんて知る由もない浅倉君。嫌だなんて思ってませんが。
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