2168人が本棚に入れています
本棚に追加
/474ページ
口の中のチョコレートを噛みながら小首を傾げていると、「ゴミ貰うよ」と浅倉君が右手を広げた。
「あ。ありがとう」
チョコレートの包み紙。左手に持っていたそれを何の躊躇いもなく浅倉君の右手に渡す。
いや、正確に言うと渡そうとした。
渡すよりも先に、浅倉君があたしの左手首を掴んで、そのまま強く引き寄せられる。
「っ、」
油断していたあたしに押し付けられた浅倉君の唇。すぐに離れたそれを目を見開いて追えば、楽しそうに口元に弧を描く浅倉君。
「…っ何、して、」
「チョコの味する」
「……き、キスとか、しないって、」
人の話を聞かない浅倉君の胸を押して距離をとろうとする。でも、片手で押す力なんか僅かなもので、浅倉君は何ともない表情で口を開いた。
「ここ俺ん家だから」
「……だから何」
「家主の言うこと聞いて」
「めちゃくちゃな…」
「洋平先輩のことも考えんなよ」
‘今は’と付け加えた浅倉君に心を揺らしてしまえば、隙を突かれたように再びキスをされる。
井槌さんからの告白を受けたままの状態で。まだ返事もしていない宙ぶらりんの状態で。浅倉君と触れ合うことなんてダメだと。浅倉君と一緒にいるのが嫌なわけじゃないけど、そういう事をするのはダメだと。
確かにあたしは浅倉君に伝えたはずなのに、そんなのなかったことのように浅倉君は普通にあたしに口づけをしてくる。
どうしてこんなことになるんだろうと考えても分からず。というよりも浅倉君にキスをされながら頭をそっちに働かせる余裕などない。
最初のコメントを投稿しよう!