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きつく噤んでいた口をゆっくりと開き、目一杯の力を全身に込めてあたしは浅倉君に顔を向けた。
浅倉君はジっとあたしを見つめている。逸らすことなく、真っ直ぐに見つめてくるからあたしはそれにまでイライラする。
好きじゃないのなら、あたしのことをペットとしか思っていないのなら、そんな目で見ないでほしい。
「ねえ、吉村俺、」
「うるさい」
ずっと閉じたままだったあたしの喉から零れた声は、思ったよりも大きいものだった。
はっきりと的確に浅倉君の元に届いて、それに浅倉君が狼狽したように目を見張る。
「浅倉君、うるさい。黙って」
「…うるさいって、…」
「家帰ればいいじゃん」
「…は?」
「こんなとこより、日南志保さん連れて家帰ればいいじゃん」
「日南、って…、何言ってんの」
浅倉君のとぼけた声に更にあたしの怒りのメーターが上がった。
鼻から大きく息を吸って、下から思いきり浅倉君に睨みを向ける。なんであたしが怒っているのか見当もつかないらしい浅倉君は眉を顰めたままだ。
分からないんなら、この際はっきり言ってやる。
「この前電話したとき一緒にいた人。すごい美人な人。日南志保さんでしょ。あんな夜中に家に入れて何してたんだか」
「あー…」
「声聞こえてたし。冷蔵庫がどうとかこうとか言ってたの聞いた」
「…、」
「浅倉君その人のことが好きなくせに、あたしに構うとか良くないよ」
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