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言い返す気力も失いかけているあたしを見ても、浅倉君はバカ発言を訂正することはしない。
「聞いて、吉村」
代わりにに全く思いがけないことを口にした。
「俺、吉村のことが好きだよ」
「………………は?」
あまりにもナチュラルに吐かれたそれに、自分の耳を疑う。ポカン、とあたしはタコ唇の上、間抜けな表情で目の前にいる浅倉君を見つめる。
空耳だったのではないかと、あたしは食い入るように浅倉君の双眸と視線を合わせる。
「…なに、?」
「だから嫌。吉村と洋平先輩が付き合うのも、吉村に他に好きな男がいるのも」
「…意味、分かん、ない…」
「分かってよ」
「…だ、って」
浅倉君は日南志保さんが、日南志保さんのことが好きなんだって。あたしのことはペットとしか思ってないって。
ここ数日そう思って過ごしてきて、いきなりそんなこと言われても頭がついていかない。
浅倉君の言葉を呑み込むことができず、目線を浅倉君から背けて雨でビショビショに濡れている地面に落とす。
「こっち向いて」
諭すような優しい声だった。浅倉君はあたしの顔を挟んでいた手を解くと、そのまま温かい手のひらであたしの頬を包み込んだ。
顔を上げるよう力を入れられ、泳がせた目線を仕方なく浅倉君へ移す。
「俺が可愛いと思うのは吉村だけだし、キスしたいって思うのも吉村だけって言わなかったっけ」
「……、言ったっけ…?」
「別れてからも心のどっかに吉村がいて、偶然また会えて嬉しいって俺言わなかったっけ」
「…そっ、そんなの、言ってないよ…」
「また俺のこと好きになってほしいって、伝わってない?」
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