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なんだそれ。ギュっと目を細めて口を横に結ぶ。
浅倉君は少し困ったように笑みを浮かべて「だからさ、」と吐息交じりに呟いた。
「吉村は好きな男のこと諦めて、俺んとこ来たらいいでしょ」
「…横暴な、」
「吉村のこと一番理解してるの元カレの俺しかいないって」
自分をおススメ商品のように推してくる浅倉君に呆れて笑ってしまう。
ああ、なんか、4年前のバレンタインデーに似ている。
あの日、別れてしまう前にあたしがしっかりと浅倉君に好きだと伝えていたら。部活の先輩に好意なんてなく、高校が違っても、浅倉君と付き合っていたいと伝えていたら。
浅倉君とあたしとの間にあった誤解は解けて、あたしはお母さんの前で大泣きすることもなかったのに。
「……、」
今、また、あたしがはっきり自分の気持ちを打ち明けなければ、ありのままの想いを隠してしまったら。また浅倉君はおかしな誤解を抱えることになる。
あたしが別の人のことが好きなんていう、あの時と同じ間違いを生んでしまうことになる。
もう、そんな失敗は懲り懲りだ。
「全然分かってないよ」
あたしが苦笑を漏らすと、浅倉君はムっと口を曲げる。
「分かってないって、何が?」
「浅倉君、あたしが誰を好きだと思ってるの」
「知らねーよ。どうせ変な男だろ」
「…変な、ねえ」
破顔しつつジロリと浅倉君を見つめれば、怪訝そうに眉を顰めていた。
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