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「は、何?俺が知ってる奴なの」
「知ってるも何も、浅倉君だし」
「………、」
平然と言い過ぎてしまったか。浅倉君が言葉を失っている。あたしの頬に触れたまま固まっている。
チラチラ、と瞳を降りしきる雨に泳がせた後。「は?」とあたしを見る表情は当惑そのものだった。
吃驚している顔になんだか勝ち誇った気分になる。
「好きって伝わってない?」
「…、」
さっきの浅倉君を真似てみれば、放心状態だった浅倉君はいじけたように唇を尖らせた。
「あー…ムカつく」
「、」
言葉とは裏腹に浅倉君はあたしを抱き寄せた。急に触れる浅倉君の体温に胸が大きく高鳴ってしまう。
まだ強い雨の音。浅倉君の腕に抱き締められることでそれが小さくなったような気がする。
「ねえー、」
あたしの耳元に顔を寄せ、浅倉君が息を吐くから背筋がゾクリと震えた。
「全然伝わんねーよ」
「…怒った?」
「怒った。…けど、」
「……、」
不自然に言葉を切った浅倉君の胸に顔を埋めたままチラ、と上目で浅倉君を一瞥。
「けど?」
続きを促すと、グっとうんと強く浅倉君はあたしを引き寄せる。
「ずっと捕まえとくから、逃げないで」
「……、」
「ずっと俺のそばにいてよ」
「……、」
「……返事は?」
「…うん」
ジワジワと込み上げてきた涙を堪えながら返した声は、雨の音に負けてしまうぐらい小さなものだったけど、浅倉君はそれに返すようにあたしに優しくキスをした。
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