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そろそろか、とスマホをパーカーのポケットに戻すと、隣に座っている明日香がベッタリとあたしにくっ付いてきた。
「何なのー?一緒に介護施設入ろうとか言いながら、この裏切りは…。冒涜だわあああー」
「冒涜って…」
「一度別れを乗り越えて結ばれる愛は深いのよ、とてつもなく!」
「……はいはい」
確かこの前飲んだときも同じこと言ってたな、明日香。
流すように相槌を打てば「結衣ちゃん!」と茉菜さんに激しく名前を呼ばれてビクっと体が飛び跳ねる。
目を見開いて茉菜さんに顔を向けると、茉菜さんが指できゅうりを掴んだままやけに真剣な顔であたしを見ていた。
「復縁愛が尊いのはね、お互い傷がついた同士だからなの。一度別れて、心に負った傷を抱えて相手をまた好きになると、今度こそ大切にしようって思えるの」
「……はい」
「相手をちゃんと愛そうとするの。もう傷付けてしまわないように、努力して相手を愛し続けるの。めちゃ尊いじゃん!」
「うあああああ…茉菜さん超良いこといいますやーん!」
デロデロに酔っ払った明日香の意識が茉菜さんの方へ向いたのをいいことに、あたしは上着を羽織って鞄を手に取った。
しかし、すぐさまその手を掴まれる。
「ちょっ、結衣アンタもう帰るの?!」
「途中で抜けるって最初に言ったじゃん…」
「聞いてないよ!!独り身のあたしと茉菜さんを置いて行くの?!」
「……、」
この酔っ払いが。面倒だと嘆息を吐きつつ、明日香の手を解いて鞄から財布を取り出す。
と。
「結衣ちゃんー。今日はあたしが払うから~」
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