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バクバクと激しく活動する胸を押さえて慌てて声がした方を見てみれば、浅倉君が居酒屋のメニュー看板の後ろに意地の悪い笑みを浮かべて立っている。
「驚いた?」
「…急に現れないで…」
「ずっと待ってたのに失礼な」
浅倉君はこっちに近づくと上着のポケットに入れていた手を出す。その手でフワリとあたしの手を包み込んだ。
「帰ろ。寒すぎる」
「…、」
ポケットの中に入っていたくせに浅倉君の手の温度は低い。店内にいたあたしの方が温かく、キュ、と体温を分け合うように浅倉君の手を握った。
プラプラとそれを揺らしながら夜道を2人で歩く。
「楽しかった?」
「明日香も茉菜さんもすごい飲むし酔うし大変だよ」
「吉村も飲めばいいのに」
「勧められたけど、これから浅倉君の家行くし」
「…、酔い潰れた吉村に俺が何かするとでも?」
「そんなこと思ってないよ」
クスクス笑いながら首を横に振ると「俺はサルだと思われてるからな」と浅倉君が自嘲的に笑った。
「うん。サルだとは思ってる」
「あー。なるほどな、後で覚えとけ」
冬の空気は澄んでいる。息をすると喉の奥がひんやりと冷たくなる。口から白い息が零れる。
何気なく見上げた空には星がいくつか瞬いていた。
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