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首元をすり抜ける夜風に髪を揺らしながら空を見ていると、浅倉君もつられたように視線を上げる。
「吉村って星好きなの?」
「…別に。なんとなく見てる」
「ふーん」
伸びた返事に確か前にもこんな風に浅倉君と夜道を手を繋ぎながら歩いたな、と。
「……、」
ブラリブラリ、と揺れる手を見つめ、記憶の引き出しを探った結果、思い出した。浅倉君と付き合っているフリをして千野先輩と決別しようとした日だ。
あの日も、こんな風に、手を繋いで。
空には星は見えなくて、あたしと浅倉君は付き合っていなくて、あたしは浅倉君のことを好きだとも思っていなくて。
「…浅倉君、」
不意に、どうしても呼びたくなってそれを音にすると浅倉君は目を向けることで反応を示す。
「好きだよ」
「っ、」
はっきりと言葉にすると、弾かれたように浅倉君があたしを見据えた。
「え。何、いきなり、」
「ちゃんと言葉にしてなかったかもって」
「…んー。たまにはそうやってちゃんと言ってくれると嬉しいけどさ、」
「…けど、何ですか」
不安げに目を細めたら、何の予告もなく、チュ、なんていきなりキスが降ってくる。
は?なぜこのタイミングでキス?
離れた浅倉君の顔を追えば、楽しそうに三白眼が細められた。
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