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幸せの帰り道 2
帰りの旅途中で洗濯物が溜まったら、宿屋の人に洗濯場を借りて洗濯をしていた。
今日、泊まる国は――魔法国ミシャンル。
レオさんは国に着くとギルドに行き、自分が所有する『ギルドカード』を見せて、お金をその国の貨幣に変えていた。
どうして? と聞いた私に『このギルドカードは身分証にもなるからね』ギルドカードにはレオさんの出身国、討伐履歴、冒険者ランクが記されているとも教えてくれた。
(身分証になるのなら、私もギルドカード欲しい。国に戻ったらレオさんに相談しよう)
たくさんの冒険者が行き交うギルドの中で、レオさんを待っていると、彼はウキウキして戻ってきた。
「ティー、いまカウンターで話を聞いたんだけど。ギルドの隣にある洗濯場で洗濯物が魔法で、それも自動できるらしい」
「魔法で、洗濯が? 自動ですか?」
「国の中でもギルドにしかないんだって。今日はティーの手が荒れなくていいね」
「私だけじゃないよ、毎回手伝ってくれるレオさんの手もだよ」
「僕は男だからいいの」
詳しく話を聞くと、水と風の魔石、洗濯用の粉石鹸を洗濯に使うらしい。
「よく分かりませんね」
「……そうだね」
取り敢えずは、やってみようとなり。
宿屋に洗濯物を取りに戻り、溜まった洗濯物を持って、ギルド横の洗濯場に戻った。
私たちの来る時間が朝早かったからか、洗濯場の中には誰もおらず、中はガランとしていた。
「レオさん、見て、四角い箱がたくさん並んでます」
「あぁ、これは初めて見るね。ティーここに『魔法使い用』と『旅人用』って書いてあるよ」
「本当だ」
レオさんも初めらしく、驚いた様子。
魔法が使えない、私たちは旅人用かな?
でも、どうやってこの四角い箱を使うの? 辺りを見回すと洗濯場の入り口に、使い方と書かれた貼り紙がしてあった。
「あ、レオさん、ここに使い方が書いてあるわ」
「本当だ、なになに?」
水の魔石と粉石鹸を魔石入れに入れる。そうすると水が出て三十分、洗いと濯ぎをして。それが終わったら同じ所に風の魔石を入れて三十分、風乾燥する……か。
「ティー、水と風の魔石、粉石鹸はギルドで買えるみたい。行って買ってくる」
「はい、お願いします」
しばらくして、レオさんが戻ってきたのだけど。
彼の後ろには冒険者らしい出立ちをした、赤い髪の綺麗な女性が着いて来ていた。
「ティーお待たせ。これが粉石鹸と水色の石が水の魔石で、緑色の石が風の魔石だって」
そう言い二センチ位の、小さな色の付いた石を見せてくれた。
「これが魔石ですか? ……ところでレオさん、この方は誰ですか?」
「えっ? 誰?」
「私は冒険者のユズって言うの、よろしく!」
彼女はレオさんの方を向いて、自己紹介した。
まさかこの女性。……レオさんが素敵だから着いてきた?
そりゃ、レオさんは長身でガタイも良くカッコいい。
これまでにも他国のギルドに行けば、冒険者の女性は彼の方に振り返ったり、話しかけられたりしていた。
それは街を歩いても同じだった。
「レオ、私は魔法が使えるから手伝うね」
馴れ馴れしくレオさんをレオと呼び、タメ口で話す女性。
彼女は私に近付き、手に待っていた洗濯物を奪い、勝手に洗濯しようとした。
そのときチラッと私を見て、彼女は見下したかの様にクスッと笑った。
「やめてくれ、君には頼んでない」
「君じゃないわユズ、そう呼んでよ。私の魔法を使えばレオの洗濯が早く終わって。この後、街の中を案内するわ」
話を聞かない彼女の行動に、レオさんは苛立ちを表した。
「結構だ。自分達の洗濯は自分たちで出来る。僕は初めに大丈夫だと断った。そっちが勝手に着いて来たんだろ」
「自分たち? この田舎臭い子はあなたの荷物持ちじゃないの?」
「ティーは荷物持ちなんかじゃない。僕の大切な嫁さんだ、君のその態度は腹が立つ!」
「えぇ、あなた結婚していたの? それもこの子と……! 嘘よ。Sランクのあなたがこんな子とだなんて、私の方が魔法とか使えるし、夜の役にも立つわ」
クネッと体をしならせて、レオさんにアピールした。
彼の尻尾が苛立ちを表して、獣人の姿を隠すローブの中で動く。
「そんな必要ない、僕にはティーがいればいい!」
自分よりも田舎者の私の方がいいと言い、全然びかないレオさんに彼女は眉をひそめて、信じられないといった表情をした。
しかし、彼女はそれでも諦めず自分の体を更に使い、レオさんの腕に擦り寄ろうとした。
彼はそれを振り払い。
「結構だ! ティー、宿屋で洗濯場を借りて一緒に洗濯しよう。この魔石はモコの土産にするよ」
洗濯物と、私の手を掴んで洗濯場を出て行く。
「レ、レオさん!」
「待って、私の方がその子より、絶対いいって」
うるさい! と宿屋に向けて歩き出した。
宿屋への帰り道、見ればわかるレオさんの怒りと尻尾。レオさんは私のために怒ってくれたんだ。
(……嬉しい)
「ありがとう、レオさん」
「なに、嬉しそうなんだよ。あの人、僕のティーに、お嫁さんに悪く言うなんて腹が立つ!」
ブンブンと揺らす尻尾した。
私は更にレオさんに引っ付き。
「仕方がないよ、私の旦那様はカッコいいから……」
ちょっとだけ、拗ね気味に言ってみたのに。
「えっ、僕がカッコいい?」
その一言で彼の機嫌がなおる。いまのいままで怒っていたのに嬉しそうに笑い『ティーが僕をカッコいいって言ってくれた』と、照れていた。
「ティー、早く宿屋で洗濯して休もう」
「そうしましょう!」
私たちは宿屋の洗濯場を借りて、いつもの様に石鹸と洗濯板を使い洗濯を始めた。
「魔法で洗うのは楽かもしれないけど、僕はティーと洗濯する方が楽しい」
「私も楽しいよ、レオさん!」
洗った洗濯物を部屋に干して、レオさんは私に。
本当は、すぐにでもこの国を出ようと思っだけど、安全を考えて、明日の早朝にしたと言った。
「この国に立ち寄ったのはね。ティーに魔法を見せたかったんだ」
「私の為に? ありがとう、レオさん。……私、魔法が凄いって知っているよ。前にモコさんに傷を治してもらったから……」
「あぁ、あの時か……あの時……僕のせいで、ティーに怪我をさせた」
レオさんの声が小さくなった。
「……ごめん、ティー」
し、しまった。あのときの話をすると、レオさんが落ち込むからしないでいたのに。私の前で、大きなレオさんの耳と尻尾がしゅんと垂れて、肩を落してしまう。
「……もう寝ようか」
と言う、レオさんをギュッと抱きしめた。
「レェ、レオはあの時、私を助けてくれた、今日だって守ってくれたじゃない。ありがとう、レオ」
元気を付けたくて、頑張って、レオって呼んでみたのだけど?
……あれっ、腕の中でレオさんが動かない?
見上げると、嘘。いつも凛々しいライオンの彼が、ニヘッと目尻を下げて、嬉しそうしていたのだ。
レオさんって、もう、私のこと好きすぎる。
私もレオさんのこと好きだけど。
「えへへっ、レオだって……ティーがいま僕をレオって呼んだ。嬉しい、嬉しすぎる、これからも僕のことをレオって呼んでよ、ティー」
えぇ、そんな可愛顔で言うなんて、卑怯。
「……わ、わかった、レオって呼ぶ」
「やった!」
だけど、私の中で彼を『レオ』と呼ぶにはまだ勇気がいる。
何度もレオと呼ぶうちに真っ赤になってしまって、トマトみたいと、レオに頬を突っつかれたのだった。
+
早朝、荷馬車の従者席に座り、地図を広げたレオ。
彼は地図を確認した後、隣に座る私に見せながら地図を指差した。
「ティー、今日はこの道を通り一つ国を越して、大国ビーランまで行こう!」
「わかりました。大国ビーランに行くのなら、お昼は通り道にあるニャーロ街かな?」
「そうだね。出来ればお昼までに行きたいね」
行く場所を決めて、荷馬車を走らせ国の門に近付くと。
門近くで、きのう洗濯場で会った冒険者の女性が立っていた。
彼女は旅支度をしたのか……手に大荷物を持っている。
そして荷馬車に乗る私たちを見つけて、笑顔で手を振り、レオ、レオと彼の名前を呼んで、こっちにかけてきた。
えっ、まさか? あの人、私たちに着いてくるつもり?
門番もこっちに走ってくる彼女を見て「あの方はお連れの方ですか?」と聞いてくる。
レオは首を横に振り。
「いいえ、僕は妻との二人旅です。あの人は他の冒険者の人たちと、僕たちを間違えているみたいですね」
そう門番に告げて荷馬車を走らせた。まだ声を上げる彼女に見向きもせず、レオは魔法の国の門をくぐる。
とうとう、荷馬車に追いつけなくなった彼女は。
「なんでよ。私も冒険に連れて行ってよ、レオ!」
彼女は昨日では懲りず、私たちの帰り道に参加しようとしていたみたいだ。
全くもって、迷惑な話である。
私は魔法国が見えなくなり、のどかな畑道に差し掛かる頃、レオに話しかけた。
「レオ、あの人……ギルドでレオのギルドカードの内容を聞いて、着いて来ないよね」
「うーん。着いて来れないと思うよ。ギルドには守秘義務があるから、冒険者たちの出身地までは教えれない。もし、そんな事をしたら罰せられたはず。それにまだ遠い、西の国までは流石に来ないだろう」
とレオは言った。
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