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黄金の宝船
ある大陸にそれは深い森がある。
闇が生まれる深淵とも呼ばれるその森は数多のモンスターが蔓延る環境と、人を寄せ付けない危険度によって無法地帯となっている。
しかしある冒険譚の発売を境に、その森へ足を踏み入れる学者、冒険者が急増した。
その冒険譚は「ゴールドラッシュ」という名前の創作物語の筈だった。
しかしその物語の著者は世界で唯一、「予知」を扱える絶世の美女であり、ある国の神官長を務める権力者。
その予知によるものであるという話が風の噂で流れたのだ。
更に後押しするようにその噂の根源は「読心術」を用いるとされる吟遊詩人。
その吟遊詩人が偶然、神官長の傍を通りかかった時に読み取った際に、フィクションを称して偽った事実である、と読み取ったのだとか。
何処までが事実かは分からないが、それでも数多の人間が権力を求め、一攫千金を狙いクエストを発注し、一攫千金を求めクエストを受注する。
そんな業を求める者がまた1人、森へと迷い込んだ。
「なんなんだよ! くそっ!」
青年は大剣を背に森を駆け抜ける。
その疾風の如き俊足はまるでその森を知り尽くしているように駆け抜ける。
しかしその背後からはそんな些細な事を気にも止めぬように、木々をなぎ倒す化け物が追いかけてくる。
「剣で傷が付かないし、このままだと追いつかれる。 運が悪いにも程がある」
木々に肩がぶつかっても気に留めない巨体。
頭部に突き出した角は鉄分を帯びて、橙色に鈍く輝く。
「このままでは……。 こうなったら玉砕覚悟で……!」
青年が振り返り、背の大剣を引き抜いて構える。
その目は小刻みに周囲を見回して一瞬で状況を把握する。
化け物が来る方向、距離、タイミングを冷静に測り、大剣を振るう。
「うおぉぉぉぉ!」
大剣を振ると同時に目の前の大木がなぎ倒されて、橙色の大角が迫ってくる。
大剣と角が邂逅し、鈍い金属音と共に化け物が首を振り大剣を弾く。
体勢が崩れた青年は万事休すと悟り、今ある状況をただ眺める。
(走馬灯ってこういう状況でも見れないもんなんだな)
青年が諦めて、大剣から手を離すとともに化け物の頭部に薄い光を孕んだ大蛇が食らいつき、そのまま森の奥へ引きずり込んだ。
「な、なんだ? 大蛇があの化け物を餌にするような森なのか? 命が幾つあっても足りないぞ、こんなとこ」
青年が疲れ果てたように腰を落とすと、パキッと小枝が割れる音に体勢を整えて背に手を回すが、そこに大剣がない。
ハッと見回した瞬間に音のする方へ吹き飛んだことに気付く。
「そんなに警戒しないで」
闇に包まれた森から僅かな月明かりに照らされて、美しく輝く金髪と神官のような肌色の衣に、だけど膝から下は素肌が見えており、何処と無くあどけなさも残る少女。
つい見とれた青年に、少女は声をかけた。
「私はユーフィリア、君の名前は?」
「フロスト・フォン・フレイ……」
この出会いが新たな物語の始まりである。
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