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現刻
夜の帷が降りた中、提灯を揺らして頭領以下火消し達全員が黙々と進む。
ぼんやりと闇に浮かぶ卒塔婆や墓石を横目に、乾いた小枝を踏み折り小石を蹴飛ばし行き着いた先はこの村に古くからある寺だ。
「裏に回るぞ。申し訳ねえが叩き起こさせてもらうとしよう」
玄関灯が揺らめく引き戸を数回力を込めて叩くと、寝ぼけた声で返事があり、褞袍を羽織りつつ光る頭がヌゥッと現れた。
「こんな夜更けに……山で火が出たと大騒ぎだったが、誰かお亡くなりになったかね? おや、これはこれは大人数だ」
「悪いなぁ、御住職。そうじゃねぇんだが……こいつを見てくれ」
「これは?」
「火が出たはずの山で見つけさせられた、女一人分の骨と、おそらく男の手首から先の骨だ」
なんと……と言葉を詰まらせた住職は、皆に本堂へ行くように命じた。
広い本堂はシンと冷えていて、香の匂いがより強く感じられた。火消し達は土に汚れた手を擦り合わせつつ、畳を汚すのではないかと恐れながら身を小さくして慣れぬ正座で住職を待った。
「火を起こしたところなのでじきに暖まるでしょう。こちらと、そちらへ。ああ、熱いお茶も用意しましょうか」
「ありがてぇや、芯まで冷えてるもんで」
「しばしお待ちを」
住職を待つ間に頭領の指示で山で見つけた徳利や猪口、その他細々した装飾品や着物だったボロ布に至るまで綺麗に並べられた。
「ちったぁ心静かになると良いなぁ? なぁ? 娘さんよ」
畳の上に頭領の法被ごと置かれた頭骨がいっそう物悲しく見えて、寒さとは違う意味で鼻を啜る者もいた。
「さて、詳しくお話を伺いましょうか」
茶を配り終え、一旦奥へと消えた住職は袈裟を纏い、顔も洗ったのか先程までの眠気は消えた様子であった。
「さてさて、ちょっと気掛かりがありましてねぇ……」
そう言うと、住職は茶色く変色し至る所が朽ちた古い台帳のようなものを慎重な手付きでめくり始めた。
「これは過去帳と申しますか……先代、先々代と受け継がれて来た物でしてね。うちで葬儀をされた方で気になったことを当代の住職が書き記して来た物……決して外には出さぬ物なのですがねぇ……今回ばかりは皆さんの目の前で失礼致します」
「門外不出のてんやわんやが書いてあるってことかい?」
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