逢魔刻

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逢魔刻

 ……ねぇ、お前さま。誰かが来たよ。  ……あぁ、親父達だ。見つかっちまった。  ……ねぇ、お前さま、手を離しちゃ嫌だよ?  ……離しゃしねぇよ、絶対に。一緒にあの世に逝くんだ。閻魔様の前で本当の祝言を挙げるんだ。  ……その後は一緒に地獄に堕ちようねぇ。ねぇ? お前さま? お前さま? なんでなんでなんで! なんでお前さまが手首しかいないの? 斬り離したの? 死んでも引き離すの? なんでなんでなんで……ねぇ、お前さま。待ってるからね、この木が目印だよ。先に逝かないでおくれよぉ。お願いだから、逝かないでおくれよぉ、逝かないで、連れてって、一緒に、ねぇ、旦那さん達、置いて行かないで──置いて、行かないで。  ……紅葉、紅葉、酒は足りたか? 大丈夫。あの人の手がしっかりアタシを掴んでくれてる。アタシは大丈夫。  ……紅葉、紅葉、あの人はどこだい? 土が痛いよ、霜柱が刺さるよ。雪が重いよ、凍えるよ。骨が軋むよ、肉が剥げるよ、髪が抜けるよ。もう綺麗だって言ってもらえないよ。抱いてもらえないよ。  ……紅葉、紅葉、あの人は! あははははははは! アタシは独りぼっち、恨みましょう、呪いましょう、鬼となり果てましょう。  ……(わざわい)あれ! 燃えてしまえ! 店も親父様も、ナタであの人の手を斬り落とした男も! 憎い、憎い、憎い! あの人を連れて行った男達も、みんなみぃんな燃えて燃えて紅葉の赤に燃えて、のたうち回って苦しんで! 絶えてしまえ!  ……ねぇ、紅葉。寂しいよ。寒いよ。独りは嫌だよ。怖いよ、紅葉。  ……アンタも逝くのかい? そうかい……ねぇ、最期に力を貸しておくれよ。  ……紅葉、紅葉、酒は飲んだか? 団子は足りたか? お山が色付く頃にあの人と……紅葉、紅葉、涙は枯れたか? 心は壊れたか? 紅葉、紅葉。もう誰もアタシを知りはしない。もう誰もいない。誰か……アタシを見つけておくれ。  ……独りは嫌だよ……  ……独りは、酷だよ……
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