桃のそれから

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遠くで蝉が鳴いている。 残りの命はあと7日ほどだというのに、 どうしてこうもテンション高くミンミン声を張れるのだろう。 そういえば、いつか拓人に言われたな。 「おまえいつも、蝉みたいに元気だな」って。 その時は、褒められたと思って喜んでたけど、今ならわかる。 あの言葉には軽蔑の意味が込められていたことを。 だって実際、拓人の今の婚約者は、私と正反対の、おしとやかでちょっと病弱そうな娘だったし。 ――駄目だ。家に居てても煮つまるばかり。 作りかけの履歴書を上書き保存し、パソコンを閉じる。 私は日よけのカーディガンをキャミソールの上から羽織り、アパートのドアノブに手をかけた。
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