桃のそれから

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西日が眩しい。 もう夕方なのか。 時間の感覚も、正直ない。 公園のベンチに腰を下ろす。 木陰が風に揺れ、私の髪をも撫でる。 勢いで会社を辞めてニ週間。 元婚約者の拓人を見返すために、正社員になるべく勇んでハローワークに駆け込んだものの、私はそこで初めて、現実と直面する。 28歳、女性。独身。 資格は普通自動車免許のみ。 最終学歴は偏差値50前後の女子大。 前歴は非正規の一般事務。 「何か他に……アピールする点などありますか?」 職員さんにそう尋ねられた時、言葉に詰まる。 でも、本当ならこう答えたかった。 「13歳の時に世界を救いました。 魔法少女マジカルフューリングとして」 が、バカな私でもさすがにそんなことは口にしない。 そもそも私が魔法少女だったってことは、 誰にも口外してはいけない取り決めだし。 ……まぁ、そんな取り決めなかったとしても、言えないけどね。 言ったら最後、職員さんから憐れみの視線を目一杯受けるであろうことは、想像に難くない。
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