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「えっ」
カッシャーン! と音を立て、私が取り出そうとしていた飲んだくれおじさんつきシャーペンがペン立てごと床に落ちた。
【わっ、びっくりしたー】
「ご、ご、ご、ごめんなさいっ……」
バラバラにぶちまかれたシャーペンを一本ずつ拾い始めると、沢田くんも膝を曲げて一緒にシャーペンを拾い始める。
動揺しちゃった。
……沢田くんが私のこと天使だなんて言うからだ。
恥ずかしい。そんなガラじゃないのに。
私なんてただの目立たないモブ顔の女子なのに。
【ドジだな、佐藤さん】
目の前でペンを拾ってくれている沢田くんの声がする。優しくて穏やかな声で、彼は言う。
【可愛い】
ボッ! と顔から火が出るかと思った。
沢田くんと同じシャーペンを拾おうとしていた手を慌てて引っ込める。
か、か、か、可愛い……?
それ、私のこと? 飲んだくれおじさんのこと?
どっち⁉︎
飲んだくれおじさんと天秤にかけられる時点でおかしいけど、どっち⁉︎
ペンを拾い終わった沢田くんが、顔を上げて私を見た。彼の漆黒の瞳の中に、吸い込まれそうなほど煌めく光がある。改めて、なんて綺麗な顔をしている人なんだろう。
【どうしたんだろ、佐藤さん。俺の顔じっと見つめちゃって……】
「な……! ううん、何でもない、拾ってくれてありがとう!」
私はロボットのような動きで飲んだくれおじさんのついたシャーペンを受け取り、ペン立てに差して棚に戻した。彼に背を向けたまま、消しゴムコーナーに移動する。
顔が熱い。
やだもう。沢田くんの顔が見られなくなっちゃう!
変なこと考えないでよ、沢田くん!
私の変な態度に気づいたのだろうか。沢田くんが不安げな声を出す。
【佐藤さん……なんか変。急に俺に冷たくなった? もしかして俺、嫌われた⁉︎ なんでなんで⁉︎ あっ、もしかして鼻の穴からめっちゃ長い鼻毛が出てたとか……⁉︎ 耳の穴から尋常じゃない耳毛が出てたとか⁉︎】
いや、マジで変なこと考えないで、笑っちゃうから。
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