沢田くんと絶対的ヒロイン

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沢田くんと絶対的ヒロイン

 私が大声を出すと、ぶつかってきた派手な浴衣姿のギャルが振り向いた。  日焼けで真っ黒な顔をして、髪は逆に金髪で、つけま何枚使ってる? っていうくらい盛ってるけど、頬がぱんぱんに膨れて鼻が潰れている残念な面相のギャルだ。体型もちょっとぽっちゃりしている。 「ちょっとお、何よお。ぶつかって来たのはそっちでしょお? なに睨んでんのよお」 「えっ? 私?」  いやいや、ぶつかってきたのはそっちですよね!! 「何よお、その反抗的な目え。超こわーい。助けてえ、ヒロシい」  ブサ……いや、残念な面相のギャルは、隣にいた男の腕に抱きついた。振り向いた男もまた微妙に目が離れていて出っ歯で二枚目とはとても言いがたい。 「どうしたんだよ、よし子」 「なんかあ、この子がアタシのこと睨むのお」 「ははっ、俺たちのことが羨ましいんじゃない? どうせ男にフラれてぼっちなんだろ。いかにも地味なモブキャラって感じだし」 「キャハハハハ! ヒロシ、ひっどぉ〜い! モブキャラだってえ! 超可哀想なんだけど〜!」  握りしめた拳が震える。    ……どうせ私はモブキャラだ。  心の声が聞けるっていう特殊能力もなくして、ツッコミ担当だったのに周りの人間のボケにもうまく対応できずに、最近はシリアスなことばっかり考えちゃうただの普通の人に成り下がった。  おかげでなんだかこの章になってからPV数も伸び悩んでいる気がするし、沢田くんファンの人からは「お前のモノローグなんてどうでもいいから早く沢田くんの心の声を復活させろよコラア!!」って思われているに違いないとか考えちゃって、毎日本棚数が減ってないか心配していたりする……。  私にヒロインなんて立場が似合わないのは、私が一番よく分かってる。  でも、悔しい……!  悔しいよ、沢田くん──。    ぐっと唇を噛んでうつむいたその時、突然誰かに背中から抱きしめられた。  ふわっとした甘い香りに、何だか覚えがある……。 「佐藤さんは、モブキャラなんかじゃない」  驚いて息が止まる。  耳元で聞こえる、低くて綺麗なイケメンボイスにも覚えがある。 「佐藤さんは俺の天使で、絶対的ヒロインだから……!」  ドーンと打ち上がった花火が、私の頭上でハートの形になる。  まるでさっきの瓶の中にあった恋の砂だ。  私に向かって降り注いでくる。  光の粒がキラキラしながら私の瞳に飛び込んでくる。  思わず見とれた、次の瞬間──。  
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