沢田くんと夏の始まり

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沢田くんと夏の始まり

「あーあ。花火終わっちゃったな」  そう言いながら唐突に森島くんが振り向いたから、私は慌てて沢田くんから離れた。間一髪、私たちがくっついていたことは誰にも気づかれなかったみたい。 「でもこれから夏休みが始まるね。今度はみんなで海行かない?【水着女子と海辺でパーリナイ(((o(*゚▽゚*)o)))ヒャッハーーー♡】」  森島くんは相変わらずだ。 「いいねえ、海! 泊まりがけで行きたいなあ【森島くんを夜這いしたい♡】」  麻由香ちゃんも煩悩を爆発させる。 「ねえねえ、誰かみんなで泊まれるようないい場所知らない?」  ざわざわとみんなの雑談が始まる。  その時だ。 「あ……」    発言したのは、なんと沢田くんだった。 「なんだよ、沢田」 「あ……うん【どうしよう、みんながこっち見てる!((((;゚Д゚)))))))俺の祖父(じい)ちゃんが島ごと別荘持ってるって言いそうになったけど、もう恥ずかしくて言えないっ……】」  ええええええっ⁉︎ 島ごと別荘持ってるなんて、沢田くんのおじいちゃんって何者なの⁉︎ 「沢田くん、どうしたの?」 「早く言えよ沢田」  みんなのプレッシャーに耐えきれず、沢田くんは震えている。 【どうしよう、こんなに見つめられたのはあの時以来だよ! そう、あれは俺が小四の時……】  えっ⁉︎ 今このタイミングで回想入るの⁉︎ みんな待ってるんだけど! 【あれ? 三年だったっけ。二年だっけ? ま、どうでもいいけど──】    うん、そこどうでもいい! 【クラスメイトの武井くんのレアカードを誰かが盗んだって朝の会で裁判になって……そんな時に、お腹が痛くなっちゃった俺は、手を挙げてこう言ったんだ……。『せんせー。漏れそうなんでトイレ行っていいですか?:(;゙゚'ω゚'):』】  あっ、その話知ってる! って、今頃それ思い出すの? 【あれは恥ずかしかったな〜。みんなが俺の発言に期待しちゃって……ただトイレに行きたかっただけなのに。……って、あ、あああああああ!! 思い出した!! あの顔の怖い人、小野田くんって、そういえばあの時の犯人だったよね!!((((;゚Д゚)))))))同じクラスだったのかーーっ!!】  ええええええええ⁉︎ 小野田くんのこと、いま思い出したーーっ!!  っていうかその犯人は小野田くんじゃなかったんだよ、沢田くん!!   「もう、なんなんだよ沢田。はっきり言えよ」 「あっ。ごめん。うちの島に別荘ある【あっ。言っちゃった((((;゚Д゚)))))))】」  えええええええええ⁉︎ とみんなが大騒ぎし始めた。 「島に別荘ってすげえ! お前んち、金持ちなの⁉︎」 「そんなことないけど……【ど、どうしよう((((;゚Д゚)))))))みんながはしゃいでる⁉︎】」 「じゃあ夏休みにみんなで沢田の別荘行こうぜ!」 【えええええっ⁉︎ 勝手に決めたら母ちゃんに怒られる((((;゚Д゚)))))))】  なんだか、この夏もまだまだ大変なことが起こりそうだね、沢田くん。  私が見つめると、沢田くんも無表情に振り返る。 【佐藤さんも来てくれるかな……?】  私はにっこり笑って言う。 「どんな水着を持っていこうかな」 「み……【水着⁉︎ Σ(゚д゚lll)佐藤さん、なんて大胆なっ!!(*´Д`*)】  ついに沢田くんの顔が退化した。私はそれを見て笑いながら、どこからか流れてきたわたあめの甘い匂いを胸に吸い込む。  祭りの夜は騒がしい夏の始まりを連れて、にぎやかに更けていった。 《第五章 夏の恋花火編 完》  そして── 《沢田くんはおしゃべり 第一部 完》  あ。ちょっと待って。  何か忘れているような……。  
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