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沢田くんがすごく感謝してくれているのは嬉しいけど、それが心の声だということが残念だ。
リアルな世界では、私が何も言わない沢田くんに対して半分に切った消しゴムを無理やり押し付けているようにしか見えない。
この状況、地味に恥ずかしいの。なんとかして〜っ!
【いや、心の中で思うだけじゃ佐藤さんには伝わらない! ちゃんと言葉で伝えなくちゃ!】
沢田くんも分かっているようだ。
早く、言葉にして受け取って〜っ!
あーっ、指がプルプルしてきたっ!
【ありがとうって言え! ありがとうだぞ、ありが十匹でありがとうとか余計なことを言わなくて良いんだぞ!】
マジで余計なこと考えてないで、早く受け取って〜っ!!
顔面が熱くなってきた頃、ようやく沢田くんがうなずいて、上に向けた手のひらをおずおずと差し出してきた。
「あ……あ……あり」
【ガトーショコラ。なんちゃって】
コラアアァ、沢田く────ん!!!!
ダジャレはもういいから早く受け取れっちゅうねん。
「……ありがとぅ」
ボソッと呟き、やっと沢田くんは私の手から消しゴムを受け取った。
顔には出ていないけれど、彼の心の中では浅草サンバカーニバル並みのお祭りが開催されている。
【佐藤さんにお礼が言えた──っ!! グッジョブ俺〜〜!!!!】
「どういたしまして」
私はクスッと笑いながら正面を向いた。
短すぎだけど、初めて沢田くんと会話しちゃった。なんだか胸の中がくすぐったいな。それに、やけに体がポカポカしてくる。
初めてだなあ、こんな気持ち。頬が自然と持ち上がる。
すると、再び彼の声が聞こえてきた。
【佐藤さん、良い人だなあ。俺、沢田で良かった。出席番号が同じだから佐藤さんの隣になれた。これがアワダやトワダだったらオワタ\(^o^)/だった。あれ? 俺、今うまいこと韻を踏んでたんじゃね? ラッパーとかなれんじゃね? いや無理だから。こないだヒトカラでGReeeeN歌った時、38点だったもん。採点マシーン、一人だからって気を使わなすぎ。マイクのやつ、俺の声を拾わなすぎ。38点ってありえない数字だよ? 何キセキ起こしちゃってんの。GReeeeNだけに】
それにしても、沢田くんって本当におしゃべりだな。
……心の中だけは。
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