カラクリ

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カラクリ

 ザクロとツキシロは、まず広場に面したバルコニーに出て、国民に挨拶した後、劇場内の会食会場へ入る段取りだった。  国民へのお披露目を無事に済ませ、会食会場に入る扉の前。ザクロは右、ハイシロは左で控えて並んでいる。ツキシロのベールとドレスのトレーンを整えてから、介添え人たちはいったん引き下がったので、今は二人きりだ。 「ザクロが、ハイシロに呼ばれて出ていって、しばらくしてから介添え人っぽいモノが入ってきたんだよね」  ツキシロはベール越しにザクロを見上げた。  ザクロは目で先を促す。 「そしたらさ、部屋の中に蝶の大群が入ってきて、びっくりして目をつぶって……顔を上げたら、自分がいっぱいいるじゃん? ちょっと面白くなっちゃってさ」 「だろうな……」 「よくよく見たら、さっきまでの自分の動きを時間差で自動再生してるみたいなんだよね」  要するに、完全なコピーだったわけだ。どおりでそっくりに見えたわけだ。 「あの中で、ザクロってば、よく自分を見つけられたなって……」 「勘ぐるな。『真実の愛』の力ってやつだ」 「嘘だ。なんかカラクリがあったんだろ?」  あ、そうだ、とツキシロは自分の胸元に引っかけたままだったザクロの左耳用のイヤーフックを手に取り、ザクロの左袖を引いてちょっと屈ませた。  銀の三日月の意匠。  左耳にかけて、真珠のついた細い鎖を整える。  お揃いだぞ、とにっこり笑う。 「カラクリ、知りたい?」  ツキシロの虹の瞳をのぞき込んでザクロが真顔で問うた。  ツキシロは一瞬ひるんで、頷いた。 「……残り香だよ」 「へ?」 「お前の弱点突いたろ?」 「……あ、ああ?」  今一合点がいかない顔で、ツキシロはザクロの顔を見つめる。 「お前、全っ然気が付いてないと思うけどさ、興奮するとすっげーいい匂いするわけ」 「え? ……なっ……マジで」  ツキシロはみるみる赤くなりながら慌てて自分の手や腕のにおいを嗅いでみている。 「今、してる。メッチャいい匂いしてる」  ザクロは、口を押えて笑い出したいのをこらえる。  甘くて爽やかなマンダリンの香り。 「ええー!」  困惑を隠せないツキシロの声に被せて、会場内からの拍手と歓声が響く。 「ほら、姫君、扉が開くよ」  ザクロはツキシロの手を取った。  会場へと続く扉が押し開かれ、二人は一段と大きくなった歓声と光に包まれた。                                                          < 終わり > 
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