箱庭にて獣は髭を揺らすようです。

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―――その昔、とある地域で正体不明の病が流行った。 名前等も付けられず、ただただ人が苦しみ死んでいく。 治療法も見つからず、医療現場は逼迫。 最低でも国家の崩壊か、最悪だと世界の滅亡か。 終わりだと絶望し、病にかかるくらいならと自分で死を選ぶ者さえもいた。 やがて病にかからなかったものは国に保護されることになったが、それもいつまで持つか。 そんな中、一筋の希望が見える。 獣と血を混ぜ合わせることにより、獣のような姿になる代わりに病の治療が出来る、という解決策が見つかったのだ。 死を拒む人類はその解決策に縋り、次々と獣になっていく。 病気にかかり、生きるために人を捨てた混血種。 病気にかからず、人の形のままの純血種。 二つに分かれた人類は、もう二度とこのような悲劇が起こらぬよう、全てを箱庭に押し込んだ。 この箱庭で幸せに暮らせるように。 この箱庭が平和でいられるように。 時は悲劇から数十年後。 機械と皇帝一族に支配されたその国に、一匹の獣が住んでいた。 ( `ハ´) 真っ赤な毛並みに、二本しかない太く長い髭を持つ、混血種の男。 中流階級であるエリアBにて暮らす彼は、様々な人物から恐れられていた。 その長い髭は少しの変化も逃さず、怪しき影があれば一瞬のうちに叩ききる。 名はシナー。職業は監視官。 箱庭を見張る、国の瞳を担っていた。 ――――箱庭にて獣は髭を揺らすようです。
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