2人が本棚に入れています
本棚に追加
―――その昔、とある地域で正体不明の病が流行った。
名前等も付けられず、ただただ人が苦しみ死んでいく。
治療法も見つからず、医療現場は逼迫。
最低でも国家の崩壊か、最悪だと世界の滅亡か。
終わりだと絶望し、病にかかるくらいならと自分で死を選ぶ者さえもいた。
やがて病にかからなかったものは国に保護されることになったが、それもいつまで持つか。
そんな中、一筋の希望が見える。
獣と血を混ぜ合わせることにより、獣のような姿になる代わりに病の治療が出来る、という解決策が見つかったのだ。
死を拒む人類はその解決策に縋り、次々と獣になっていく。
病気にかかり、生きるために人を捨てた混血種。
病気にかからず、人の形のままの純血種。
二つに分かれた人類は、もう二度とこのような悲劇が起こらぬよう、全てを箱庭に押し込んだ。
この箱庭で幸せに暮らせるように。
この箱庭が平和でいられるように。
時は悲劇から数十年後。
機械と皇帝一族に支配されたその国に、一匹の獣が住んでいた。
( `ハ´)
真っ赤な毛並みに、二本しかない太く長い髭を持つ、混血種の男。
中流階級であるエリアBにて暮らす彼は、様々な人物から恐れられていた。
その長い髭は少しの変化も逃さず、怪しき影があれば一瞬のうちに叩ききる。
名はシナー。職業は監視官。
箱庭を見張る、国の瞳を担っていた。
――――箱庭にて獣は髭を揺らすようです。
最初のコメントを投稿しよう!