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「少女趣味でもあるの?」
「ん、ないな……」
「ないんだ……」
中学の調理実習以来やったことはないが、やれないわけではない。
林檎を八頭分にして芯をとり、ウサギの耳になるように切り込み、皮を途中まで削ぎ入れた。
「出来るもんだな」
「おーすげー」
皿に盛り、楊枝を刺すと横から手が伸びてきた。
行儀はあまりよろしくないが、いつものことなので仕方ない。
「うまっ」
「蜜が沢山入ってたからね」
居間に戻ると、田中もウサギの林檎を齧った。
林檎は甘くて、美味しかった。
田中の目の前で欠伸をする男は、柴崎という。
柴崎の見た目は柴犬だが、中身は猫である。
とにかく自由奔放。
飽きっぽい性格で、気分が乗らないと平気で人との予定をキャンセルしたりする。
ただ、食べることにも妙なこだわりがあることを知ってから、少しづつ餌付けをはじめ、今では柴崎から「ご飯を食わせろ」と言うまでになった。
「柴崎、おかわりする?」
「する」
因みに今日の献立は、大根と油揚げの味噌汁とキャベツを山盛りにした生姜焼き。
男子大学生好みのスタミナ食で柴崎の好物である。
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