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ただ、田中は箸の持ち方は綺麗だ。
食べ方も米粒ひとず残さず食べる。
片や柴崎は見るも無惨、親の顔が見てみたいという奴だ。
箸の持ち方くらい直せばという話だが、二十年近く使ってきた持ち方を直せるほど器用ではない。
直す気もないのだが。
食べるとき不快にならない相手だからというのは理由になるだろうか。
となると、田中の食事の相手が柴崎なことが少しかわいそうと思って考えるのをやめた。
いつの間にか主食を田中が食べ終えていた。
少し遅れて柴崎も食べ終わる。
すると程よくして田中がビニールのかかったスプーンを外しプリンの蓋を空けた。
それを見つめていると、田中が一口すくい柴崎の口元へ持ってくる。
柴崎はそれを躊躇なく口に含んだ。
男からのあーんっの衝撃よりも、舌の上で滑らかな甘さが広がるプリンを一口を食べる方が柴崎には大事であった。
「甘っ」
田中が苦笑う。
「眉間にシワ寄ってるぞ」
田中は笑いながら柴崎の眉間のシワを突いてきた。
「突くなよ」
田中の突いてくる指を掃いのける。
「眉間にシワがよるくらいならプリンを食わなきゃいいだろうに」
「眉間にシワがよるからといってプリンが苦手なわけじゃない」
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