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現に柴崎は食堂のプリンを必ず一口だけは口にする。
この一口だけはどうしても甘いものが食べたいのだ。
そして一口目はうまいと思う。
だけど二口目は一口目ほどの美味しさがなくなる気がするのだ。
だから田中とメシを食うようになる前のプリンは一口食べては捨てていた。
それを田中がたまたま見つけ柴崎に声をかけてきたのだ。
『それ捨てるの? なら、頂戴』
関わりたくなかったので無視したのだが田中は柴崎の手から無理矢理食べかけのプリンを奪うと笑顔で去っていった。
翌日も翌々日も、田中が柴崎の席の前に現れて、奇妙なメシを食う関係に発展した。
そして、いつの間にか田中がプリンを買うようになり、あれから一年半。
害がないので放っておいたら親友とまでは呼べなくてもメシ友と呼べる関係にはなれた気がする。
「何、思い出し笑い?」
この関係が気にいっている。
それ以上は、何か困る。
柴崎は手を合わせた。
「ごちそうさまでした」
食器を片そうと立ち上がる。
「もう行くの?」
「ああ、食い終わったし」
柴崎が自分本意で席を立つのはいつものこと。
田中はそれを咎めることなく手を振った。
「またな」
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