最終章

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 もしかしたら、詠子さんは癌を克服して元気になるかもしれない。そして、その事で、寧々達は思い悩むようになるかもしれない。 (それもぜんぶ受け止めよう)  でも、絶対に、この人を独りにはさせない。何が起ころうとも共に乗り越えてみる。こんなにも、真剣に、この人を好きになった自分の事を誇りに思っている。 (あなたは、わたしの光って誰かが歌ってたよね……。あなたといると、この世は美しいと感じられるの……。あなたの側にいると幸せだと感じられる……)  まだ眠っている鈴木蓮の頬に軽くキスをしてから両手を突き出して起き上がろうとする。  時刻は午前十時。早く、ジェリーにおはようを言わなくちゃ。  遮光カーテンを開くと生命に満ちた濃い緑の木々が見える。何もかもがあまりにも綺麗で空の向こうまで心が羽根のように舞い上がっていくような気がする。 「んっ……」  鈴木蓮が眩しそうに目を細めたまま半身を起こしている。全裸の寧々は床に落ちているパジャマを拾い上げようとして、ベッドのマットレスの縁に片手をついたまま少し前屈みになる。 「寧々?」  鈴木蓮が目をこすりながら、レースのカーテンの前に立つ寧々の名前を呼んだ。すると、寧々は全裸で振り向いてから、嬉しそうに呟いた。 「おはよう」  男物のパジャマを羽織っただけの寧々のしどけない後姿は、あの日の朝と同じように白く艶やかに輝いている。目覚めたばかりの鈴木蓮は眩しそうに目を細めている。  綺麗なものに吸い込まれているかのように寧々だけを見つめている。こういう時の鈴木蓮はとても無防備で可愛らしい。  寧々は、彼を抱き締めたい衝動に駆られていた。彼は、詠子さんに理不尽な目に遭わされても、それを怨んだりしない。それどころか、彼女を許して癒そうとする。  朝の光が燦々と降り注いでいる。優しい気持ちと共に彼への愛しさが胸に溢れて煌めく。寧々は、彼のクルクルした前髪をかきあげる。  そして、優しく彼の唇にキスを落とすと、フアッとした笑みを浮かべて囁いた。 「今日もいい天気だね。ホットケーキを作るね」      おわり
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