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男が目を覚ますと、視界には見慣れた寝室の天井が映る。
どれくらい眠っていたのだろうと考えながら、右手を何度か握ったり開いたりする。そこにはまだ、自分のものではない体温が残っているように思われた。
手だけなく、男の全身にも。そして男の横たわっているシーツの右側にも、同じ温かさが感じられた。
男は天井をまっすぐ見つめたまま、起き上がりもせずにじっと考える。
死者の体は冷たい。それはよく知っている。
血液が体内を巡らなくなったことで、物質的に熱が失われたというだけのこと。
――本当にそうだろうか。
男はこの数日で疑い始めていた。
生きている人間の温かさは、物理としての熱によるものだけなのだろうか。そうではなく、人の肉体のうちに宿る魂こそがぬくもりの源なのだとしたら?
死者の体は冷たい。それは体から解き放たれた魂が、すべての熱を持ち去ってしまったからではないのか。
そうだとしたら、魂が姿を現すときは――。
男は一人きりの部屋で、いまだ体に残るぬくもりを噛みしめていた。
(了)
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