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それから私は都内に引っ越して、朝は春野さん───颯晴───と待ち合わせて一緒に出勤するのが私達の新しいルーティーンになった。
寒い冬も直前まで私の熱い手と繋がっていた彼の手は静脈認証を難なくクリアするようになった。
「・・・羽雪。」
冬なのに春みたいに暖かい日が続いていた。休みの日、颯晴の部屋のソファでぬくぬくとくつろいでいると彼が私を呼んだ。『ん?』と返すと颯晴は私をぎゅっと抱きしめて言った。
「最近、一人でこの部屋にいるとやたら寒いんだ。暖房全開にしても凍えそうなくらいで夜も途中で目が覚めたりして。」
「そう?最近あったかいよね?寒いならエアコンのフィルター掃除すればいいんじゃないかな?それでも駄目なら買い替え?この部屋広いし温まりにくいのかもね。」
そう返すと『バカじゃねぇの?』と言われた。ムッと来て彼を睨み付けようとすると、その前に唇を奪われた。
「冷たい俺を羽雪が温めて。ここで、一日中、一年中。」
唇が離れると彼にそう言われ、ハッとする。
「・・・それって!?」
「・・・言わせんの?」
「言ってほしい・・・な。」
そう言うと颯晴は『くそっ!』と言いながら頭を掻き、それから私の目をまっすぐに見て言った。
「・・・俺と一緒に暮らしてほしい。羽雪の温もり知っちゃったから、もう一人じゃいられない。」
「・・・しょうがないな。」
颯晴にぎゅっと抱きつきながら言うと、彼の体は熱かった。そのままソファに押し倒されて、私達は手だけではなく全身の温もりを分け合ったのだった。
冷たい彼と熱い私のルーティーンはこれからもっともっと、温かくて、心地よくて、幸せなものになる───そんな予感がした。
───冷たい彼と熱い私のルーティーン 完───
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