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沈黙したまま一階に到着した。普段使う玄関は19時で閉まってしまうので、警備員さんがいる裏口から外に出た。刺すような寒さに、もし今雨が降ったら雪になるだろうな、なんて思う。
地下鉄の駅までの道はひと気がなくて、二人の足音が響いた。駅の入り口の階段を降りて改札を抜け、また階段を降り、ホームで数メートルの距離を保って電車を待つ。
───同じ方向だったんだ。どこに住んでるんだろう・・・どうでもいいけど。
電車が到着したので乗り込む。すいていたので座ると春野さんも座ったみたいだった。乗り換えのターミナル駅に着き降りると、隣のドアから彼が降りてきた。
───乗り換えの駅も一緒だったんだ。朝同じくらいの時間のはずなのに会ったことなかったな。まぁ、人多いしね。
東京と私の住む県を結ぶ快速電車に乗り換える。地下鉄と比べ本数は少ない。ふと見ると数メートル離れたところで春野さんも電車を待っている。
───嘘。この線のユーザーだったんだ。なんかちょっと親近感・・・いやいや、あんなやつ・・・。
川を越えて東京から県内に入る。30分ほど乗って降車駅で降りるとまたしても春野さんが隣のドアから出てきた。さすがに声をかける。
「家こっちなんですね。」
「・・・いや、家は東京。」
「え!?じゃ、なんで・・・。」
「・・・遅くなったし、あんた疲れてるみたいで危なっかしいから。」
ぶっきらぼうに言った彼の顔は不機嫌そうだった。
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