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『ヒューーーッ』
『風が気持ち良いわね♪』
『貴女は幼い頃から、この場所を好みますからね』
故郷の村で生まれ育った幼馴染みに大切な話があると言われて、昔から彼女が家族や知人への愚痴を溢す際に二人きりで会っている、村を見下ろせる風が吹き抜ける高台へと登って来ました。
『ヒューーーッ』
風に吹かれながら彼女は、私達の生まれ故郷である村を高台から見下ろして。
「……小さいわね」
彼女は小声でそう話すと私の方に振り向き、純粋さの中にも情熱を感じさせる瞳で真っ直ぐに見詰めますと。
『村を出る事にしたわ』
一度決めた事は絶対に曲げない性格をしていると知っている彼女の瞳を、私も真っ直ぐに受け止めて見詰め返しますと。
『私は貴女の性格を知っているつもりですから、翻意を促しても無駄だと解っています。しかし幼馴染みの義務として忠告をさせてもらいます。止めておいた方が賢明です』
彼女は幼馴染みの私が止めると予め解っていたので、気分を害して怒り出す事はありませんでしたが。瞬きもせずに私の目を見詰めたまま。
『止める理由を教えてもらえるかしら?』
彼女の問いに私は頷いて。
『私の知る限り貴女は世界で一番美しく魅力的な女性です。生き馬の目を抜く厳しい競争社会である都会に、地方出身の美女が一人で移住しても、都会の住民に美貌と身体を利用されて捨てられるだけです』
私の回答を聞いて、何故か彼女は満足顔を浮かべますと?。
『貴方は本当に冷静に物事を考える男性ね♪。私の御母様は貴方の事を名前では呼ばずに、冷たいあの人と呼んでいるのよ』
彼女の言葉に私は苦笑を浮かべて。
『知っています。子供は聞いていないようでいて、大人の話を聞いていますからね』
『ヒューーーッ』
彼女は高台から、小さく見える自宅を見下ろして。
『まあ、もう私達には関係の無い話ね』
『私達ですか?』
幼馴染みの発言の真意を掴めずにいますと、悪戯っぽい笑みを彼女は浮かべて。
『二人で行くのよ。氷のように冷静に物事を考える事が出来る貴方と、考えるより先に動く私は、氷と炎の良い組合せだと思うけれど?』
彼女の提案を聞いて、ここで断り幼馴染みを見放したら、私は一生後悔するであろうという結論に至り。
『いつ行きますか?』
同行するという私の返答を聞いた彼女は、高台の草叢に歩いて行き。
『思い立つ日が吉日よ。実は荷造りは済ませてあるのよ』
草叢に視線を向けますと、私の鞄も置いてありました。
『貴女の情熱と行動力は素晴らしいですね』
私の本心からの賛辞を聞いた彼女は、心の底から嬉しそうな笑みを浮かべて。
『私が暴走した時には貴方が止めてね♪。さあ、行きましょう』
私と彼女は鞄を持つと、二人で並んで一度も振り返る事無く故郷を後にしました。
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