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──時刻は二十一時。
オンライン飲み会の時間となり、次々と通話ルームに人が増えていく。
翔太さんによると、今日は十人ほどが参加とのこと。
僕がルームに入って、全員が揃った。
「んじゃあ、乾杯しよーぜ!!」
「はい!! 乾杯!!」
「「「「乾杯!!」」」」
翔太さんの音頭で、画面に映る先輩達がグラスなり缶ビールなりを掲げる。
今さら気付いた。二年は僕しかいない。あとは先輩達。
それに、男が僕と翔太さんしかいないのも変だ。……たまたまなのかな?
そもそもの話。冷静になって考えてみると……無理だろう。
志摩先輩はラインやってますかって?
僕と連絡先を交換してくださいって?
好きです。付き合ってくださいって?
ただでさえ面と向かって話すのも緊張するのに。先輩達が見ている中で言うのは……僕には不可能だ。
あーどうしよう。連絡をもらって燃えていたのが恥ずかしい。
「おいおいどうした? トーマ。なんか考え事か? んなことたあ、後にして飲め飲め!!」
「あっ、はい。いただきます」
そうだ。いきなり空気を壊すわけにもいかない。
とにかく今は切り替えて、飲み会を楽しもう。
僕もお酒を飲む。お酒と言っても、ほろ酔いだけど。
志摩先輩はどんなのを飲んでいるんだろう。興味が湧いた。
湧いただけで聞けやしないんだけど。
情けない自分に軽く落ち込んでいると、幸か不幸か、女の先輩が志摩先輩に聞いていた。ありがとうございます。
「トーマくんはー、なにを飲んでいるのかなー?」
僕もその会話に参加しようとしたけど、茜さんに妨害される。なにしてくれてんだ、酔っ払い。
「ほろ酔いのぶどうです」
「ほろ酔いなのー? オンラインの飲み会なんだからさー。パーッと飲もうよー」
「いいじゃないですか。お酒に強くない僕にはちょうどいいんですよ」
「それはトーマくんだけだってー。ねえ? みかちゃーん?」
始まったばかりだと言うのにうざ絡みし始める茜さん。
早速、絡む相手を志摩先輩に変えた。
すでに面倒くさくなりそうな未来しか見えないけどありがたい。あと志摩先輩ごめんなさい。
酔っ払いの思わぬ行動に準備を整える。今度こそ志摩先輩の好みを。
「そんなことはないわ」
「そうー? じゃあーみかちゃんはなにを飲んでいるのー?」
おおう。ナイス酔っ払い。いいぞ!! いけいけ!!
「私もほろ酔い」
「種類はなんで──」
「あっれー? いっつもみかちゃんはガッツリなのにー」
「ほろ酔いと言ったらほろ酔いよ」
「あー。そっかーそうだよねー」
「……な、なに?」
「今日はいつもとちがってー。例のなかし──」
「ほろ酔い以外なら──」
「私はほろ酔いしか飲まないわ」
「あっれれー? なんでそんなにひっしなのー?」
「いい加減にしなさい。茜、水を飲むのよ」
「へへ。もうかわいいなーみかちゃんはー……いいよー。今はひいてあげるー」
酔っ払いのおかげで、もう志摩先輩のお酒の話題も終わってしまう。
せっかく好みを聞きたかったのに、ほろ酔い好きってことしか得られなかった。全然会話できなかった自分が恨めしい。
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