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「──お断りよ」
食い込ませる勢いの拒否は、その場を凍りつかせた。
画面上には通信エラーでもないのに静止画が複数枚。
微妙な角度でお辞儀を中断した僕。つまみをくわえたままの翔太さん。焼酎を抱き枕にして目を見開く茜さん。口から缶ビールの滝を作る肉食系の亜美さん。各々の態勢で固まる先輩達。
僕はショックやら混乱やらで反応をなかなか返せずにいた。
だけど、他の先輩方はどうだ。
軽いノリで始めたゲーム。冗談と言いながらすべてを流してきた嘘告白。
最後は僕を奮い立たせ、失敗したときもフォローしてやる、と頼もしいことも言ってくれた。
なのに……なんで。天変地異が起こったかのように驚いているんだ。
ともかくこのままではまずい。もうこの時点でまずいなんてレベルではないんだけど。
マイナスになるくらいならゼロの方がマシだ。投げやりな思考になった僕が最初に再起動した。
「……い、いやー。冗談ですって。ゲ、ゲームですからね。それに酔っ払いの戯言ってよくあることですし。ねえ? 翔太さん」
一文字発するごとに志摩先輩の視線が鋭利なものになっていく。
でも、空気を和ませるくらいはしないと本気でまずい!! ガチ告白の空気に持っていくわけにはいかない!!
翔太さんに救いを求めると、やけにいい笑顔を見せる。
「しょ、翔太さん?」
「……彼女から電話だ。つーっわけですまん。抜けるわ」
「ちょ、翔太さん!?」
「良いお年をー」
「翔太さん待って!!」
画面上には無情にも『shotaが退出しました』とのメッセージが。
これを皮切りに、他の先輩達も電話を取り出した。
「ご、ごめん!! 彼氏からだわ。ごめんねー」
「あ!! うちも!!」
「しょうがないなーまったくー」
「束縛激しい系で困っちゃうよねー」
……などと吐き捨て、次々と姿を眩ませていく。
ウソつけ!! 彼氏ほすぃーって毎日のように言ってるくせに!!
「あーっと、もしや……」
さすがの茜さんも酔いが冷めたようで、この状況に困惑している。
まだだ。まだなんとかなる。
志摩先輩と一番仲良いし。茜さんさえいれば挽回できる。
「茜さん。あれはゲームですよね?」
「大丈夫。分かってるよ」
「……あ、茜さん」
さすが茜さんだ。
フォローもせずガチ感が増幅するのに逃げていった先輩達とは違い、不覚にも泣きそうになった。
これで空気を一転し、ガチ感をなくせば──
「今日の運勢一位だからきっとなんとかなるよ!!」
「茜さんんんんんん!!??」
僕の必死な呼びかけは届かず。
その場には『あかりん☆が退出しました』という憎たらしいメッセージと死ぬほど思い沈黙が残された。
好きな女性と二人きり。なのに、なぜだろう……気が狂いそうなくらい気まずい。
志摩先輩は見るからにご立腹のようで。先輩達が逃げるのも理解できるほど彼女から醸し出る無言の圧力は凄まじい。
それに、僕まで抜けたら一生志摩先輩と会えなくなりそうな予感もあって、通話終了のボタンが押せずにいた。
僕が壊した空気だし、せめて和解して終わりたいという逃げの姿勢も含めて。
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