ソルテの花の咲く中庭で

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ソルテの花の咲く中庭で

 中庭へ続くドアを開けた途端、冷気が渦を巻いて室内に流れ込んできた。  外に歩み出た私の頬を吹き付ける風が強張らせる。空に広がる薄い雲からは、ひらひらと細かな雪の華が舞い始めていた。  間もなく本格的な冬を迎えようという時期にも関わらず、中庭の中央では沢山の黄色い花が凛と胸を張るように咲き誇っていた。  私は手を伸ばし、その一輪一輪を慈しむように手折っていった。かじかむ手に息を吹きかけながら、次々と花を摘み、籠に入れていく。  と―― 「何をしているのです!」  ピンと張り詰めた冬の空気を切り裂くように、背後で声が響いた。 「何って……見ればわかるでしょう? ソルテの花を摘んでいるのよ。これから氷の魔女と戦いに行く戦士達のために」  振り返りざま、ふんと鼻を鳴らして言ってやる。しかし、彼は眉ひとつ動かさず、いつも通り氷のような冷ややかな目を向けるばかりだった。  剣士としては小柄で、私と頭一つ分ぐらいしか変わらない。歳も私と一つしか違わない彼は見た目こそ少年だが、一たび剣を握らせれば魔神のごとき強さを誇る。  この国随一の剣の使い手であり、選ばれし聖剣士アルベルト。それが彼の名前だ。 「そんなものは、使いの者にでもやらせればいい。身体を壊します。早く中へお戻りください」 「そんなものって……」  私の胸に、アルベルトの言葉が小さな棘のように突き刺さった  これから戦いに行く彼らとは、目の前のアルベルト達に他ならないのだから。  もう間もなく、アルベルト達は氷の魔女との戦いに出発する。強大な力を操る魔女に対抗するには、ソルテの花の蜜から作られる〈ソルテの加護〉が不可欠だ。  そしてそれは、王家の血を引く私にしか作ることができない。  昨夏に前国王である父がこの世を去ってからというもの、王家の血筋はもう私一人しか残っていないのだ。
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