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「アル、でもこれは」
「アルベルトです、姫。何度言ったらわかるのですか」
遮るように、アルベルトは言った。
その昔一緒になって走り回った頃の面影はどこにもない。昔のように愛称で呼ばれる事すら拒絶し、今の彼はただ、選ばれし聖剣士として私の前に立つ。
「心配せずとも、魔女は我々が討ち果たしてみせる。そのために私は、先代からこの聖剣フラーモを授かったのですから」
アルベルトはおもむろに腰の剣を抜き放ち、天へかかげて見せた。この国に代々伝わる聖剣フラーモは、氷の結晶のように透き通った刀身をしている。しかしアルベルトの手にあるそれは、空で燃える太陽のように深い橙に染まっていた。
聖剣フラーモは選ばれし聖剣士の魂にのみ感応して、鮮やかに燃え上がるのだ。
「国王亡き後、あなただけが民の拠り所なのです。姫は我々が帰るのを静かに待っていればそれで良い」
「まるで私が役立たずみたいな言い草ね。あなた達が命を懸けて戦っている間、部屋で昼寝でもしてろって言うの?」
「お好きにすればよろしい。ただし、お体にだけは差しさわりのないように」
冷たく言い捨て、アルベルトは去っていった。私を連れ戻すよう命じたのか、入れ替わりに多数の従者達が走ってくる。
私は一人、小さく息をついた。
白い吐息が、私の想いを表わすかのように空へと溶けて消えていった。
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