純愛

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「咲!お疲れ様!」 部活も終わり時刻は午後二時。 名前を呼ばれ振り向くと校門の近くに多々良が立っていた。私に気が付き、ちょっと恥ずかしそうに顔を赤らめながら手を振ってくる。 (今日から本当に私の彼氏なんだ) 私は手を振り返しながら申し訳程度に前髪をちょっと直す。 今まで何人かと付き合ってきたが、これといって特別な感情を抱いたことがなく、短期間で別れを迎えていた私にとって、多々良もそんな一人だと思っていた。 自分はレズなのでは。そんな事を考えたことさえあった。 「お疲れ様。迎えありがとう」 「いいよ俺は部活休みで暇だったし。とりあえずどっかで話そ」 そう言うと多々良はごく自然に手を繋いできた。 何度かふたりで遊んではいるが手を繋ぐことは初めてで、私は恥ずかしくなり俯く。 180cm近くある身長に細身な体型。指も細く長く綺麗な多々良。 それでいてまだ顔立ちには幼さが残り、笑うと子どものようだった。 高校の最寄り駅から二駅。多々良の地元の駅に着く。私は初めて降り立つ駅に少し緊張しながら多々良の隣を歩いた。 (あ、自転車学校に置いてきちゃったな……) 今更そんな事を思ったが、逆にそんな事を考えられるくらい気持ちには余裕があった。 駅の近くにはちょっとしたショッピングモールがあり、私と多々良はハンバーガーとポテトをお互い買って世間話に盛り上がった。 付き合ってくれてありがとう、ほんと嬉しい、多々良は何度もそう言って笑う。ちょっと歯がゆいと感じつつ、嫌な気持ちにはならなかった。 時間が経つのはあっという間で気づけば午後五時を過ぎていた。 公園に行きたいと多々良に誘われ向かったのはショッピングモールの隣にある小さな公園。薄暗くなり、公園にいるのは犬の散歩をしている男性と、私たちと同じ歳くらいの女の子数人。 ベンチに多々良が座ると私はそれに習い隣に座る。多々良の繋いでいた手が熱を持つのを感じた。 「キスしていい?」 返事をする間もなく多々良の唇が私の唇を覆った。 「ここ外。誰かに見られるよ」 「見せてやればいいじゃん」 顔を背けようとする私の顔を手で覆い、多々良は優しく何度も唇を重ねてきた。目を閉じそれを受け入れると徐々に私の力も抜けていくのを感じた。 これを感じ取ったのか、口腔に多々良の舌が割り込んできた。 (ハンバーガーの味) あまりに色気のない感想。 薄く目を開けると、赤く高揚した多々良の頬が見えた。多々良の舌は容赦なく私の舌を捕まえて絡みついてくる。 (ああ、ちょっと苦しいな……) 経験人数も少なくキスの仕方が下手な私は息をすることを忘れ、意識が遠のきそうになっていた。 やっと唇を離した多々良は、私の顔を覗き込んでくる。 「気持ちよかった?」 これが気持ちいいというものなのか。 「うん、多分、気持ちよかった」 「良かった。ずっとこうしたかった」 恥ずかしそうに笑うと、多々良は力強く私を抱きしめた。 ハンバーガーの味がして、苦しくて、意識が飛びそうで。これが気持ちいいというものならば、きっと私は気持ちよかったのだろう。 誰かが『気持ちいい』に定義をつけている訳でもない。 私はこれが私にとっての気持ちいいものだと自分の中に定義づけた。
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