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浮足立つ2月
二月に入ると職場がそわそわし始めた。毎年秋くらいからバレンタインイベントに関連した仕事も増えるので、社員としては尚更なのだろう。
かくいう紗子も、初めて恋人の居るバレンタインを迎えようとしていて、気もそぞろだ。和久田はあまり甘いものが好きではないと公言しているから、ビターな高級カカオを選ぼうかな、くらいには思っていた。ところが。
*
「なあなあ、バレンタイン何くれんの」
業後に一緒に帰る道すがら、和久田はとてもうきうきした様子で聞いてきた。
「へ? バレンタインだから、チョコよ、決まってるじゃない」
「え、手作り? 手作り?」
紗子の回答に、和久田が更に浮かれて問うてきた。
まさか、手作りを求められるとは思ってなかった。和久田は会社の女子社員にモテる。ただでさえ美味しい市販の義理チョコをたくさんもらう中、更に贈る側にとってハードルの高い手作り……。
「嫌よ。チョコの手作りは凄く難しいのよ。ちょっと温度管理失敗しただけでも失敗するんだから……」
実は、過去義理チョコに紛れさせて本命チョコを手作りしたことのある紗子は、手作りチョコが自分の手に負えないこと知っていた。だからそう応えると、和久田は不満げに、えーっ、と声を上げた。
「だって、貰ったことあるけど、まあまあ美味しかったよ? だから松下からも手作りもらえると思ったのに……」
しかし、不満の言葉は紗子の敏感な乙女センサーに弾かれた。
「悪かったわね! どうせ不器用な女よ! そんなに手作り欲しかったら、今から会社で募集メールでも出して来たら!? 和久田くんなら沢山手作り貰えるでしょ!」
過去の恋人と比べられて、嬉しいわけがない。和久田はこういうところがデリカシーがないと思う。告白の時も過去に彼女が居たことを匂わせたし(って言うかはっきり言ってた)、初めて尽くしの紗子にとっては辛いばかりだ。だって、和久田にとって紗子は初めてじゃないんだから。
「そこまで怒ることか? 手作りってそんなに大変なんて知らなかっただけじゃん」
「もう知らない! 明日社内で募集メール送ってみたらいいのよ! きっといっぱい『作ってあげる~♡』って返事が来るでしょ!」
そう返事をして紗子は和久田を置いて帰った。全くもって乙女心を分かってない、と思った。
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