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図南の翼
楽毅は双丘の狭間で、清籟に身を委ねていた。
双の眼を閉じる。眼下から迫る、馬蹄の響きが意識から乖離する。
意識を己の淵源(えんげん)に委ねる。
清籟が海鳴りに変わる。波飛沫が頬を打つ。呼吸が苦しくなる。
まるで、本当に海の中に投げ出されたような、荒々しさがある。
額に玉のような汗を浮かべ、楽毅は瞼を開いた。
空を仰ぐと、其処には豁然と拡がる蒼空がある。
雲一つない無窮の空に、突如として視界を覆うほどの影が現れた。
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