図南の翼

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視界には黄塵はなく、ただ雲霞(うんか)の如し軍勢が虚しく拡がっている。 「俺は」 両脇に並ぶのは、友の司馬炎(しばえん)魏竜(ぎりゅう)。 「まさか、此処に来て怖気づいた訳じゃないよな」 半眼で司馬炎が言う。 (俺は大鵬の影を見た。あれは白昼夢だったのか) 弁明した所で、一笑されるのがオチなので、不随意(ふずい)な笑みで濁す。 「俺が怖気づくともでも」 「だよな」 司馬炎は呵々(かか)哄笑(こうしょう)し、強く楽毅の胸を拳で叩いた。
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