四月一日目【転校生】

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 元々、人から好かれるような性格をしているわけじゃなかった。  人の顔色を伺うことしかできず、それなのに俺のやることなすことは人の癇に障るらしい。  その性格のせいで同性からは揶揄われ、異性からは嫌われ、いままで散々な人生を送ってきた。  ――それも今日で終わりだ。  鏡の中、映る自分の姿を見つめた。  美容室に行って伸ばしっぱなしだった髪は染め、前髪も切ってもらった。広くなった視界が少し心細かったが、それでも少しは目の前が明るくなったような気がしない。よし、と口の中で呟く。  真新しいブレザーに身を包んだ自分は以前の自分とは違う、もう一度最初からやり直すのだ。今までを捨てて、別人として。  俺、齋籐佑樹(さいとうゆうき)はおよそ十七年間過ごしてきた街を出た。  そして、単身でやってきたのは都心の全寮制の男子校だ。ここには以前の自分を知っている人間もいない。その代わり、いつも世話を焼いてくれた使用人もメイドも親もいない。  そう、何もかもが今までとは違うのだ。  頑張らなければ。変わるんだ、俺は。今までのように逃げる必要も人の視線を怯える必要もない。頑張らなければ、ともう一度口の中で呟き、気合を入れる代わりに俺は頬を叩いた。  【天国か地獄】
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