失踪<終幕>

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失踪<終幕>

1月31日(日) 朝から競馬新聞を買いにコンビニに行く。ついでに、お礼を閉じる封筒も買った。こういう時のお礼が封筒で合っているのか分からないが、気持ちが大事。Aさんに競馬を教えながら、自分も買い、二人ともいくらか勝つ事ができた。Aさんが勝てたのが何より嬉しかった。子供達ともゲームをして遊び、最後の日を楽しみきる事ができた。明日が出発の日、封筒にお礼と、手紙をいれた。できるだけの荷造りを済ませ今日も寝る。 ──本当にありがとう。自分を受け入れてくれた優しい三人に幸せが訪れますように。一緒に行った神社でも祈った。もう家事を手伝う事はできないけれど、悩みを聞くことはできる。応援してる。 2月1日(月) 今日、地元に帰る事にした。Aさんが仕事が早く終わるとの事で、新幹線の出る駅まで送ってもらう。車中では、二週間の思い出話に花を咲かせた。旅で考えれば、長いような。失踪で考えれば、短いような。でも1日、1日すべてが忘れられない思い出だ。私は、この旅を一生忘れる事はないだろう。次に会えるのはいつになるだろう。そんな話をしながら駅へと向かった。駅につく頃に、お礼の封筒を渡し、別れの挨拶をする。チケットとお土産を買い、新幹線へと乗った。帰路の途中、Aさんが帰ってから手紙を読んだらしく、泣いてくれたそうだ。手紙はスマホのケースに入れたと言ってくれた。少しでも支えになってくれるのであれば、願ったり叶ったりである。家につく頃にはもう深夜で、玄関の鍵はしまっている。家族は寝ていて、起こすわけにも行かない。空いている窓がないかと探したところ物置部屋の窓に鍵がかかっていない事が分かった。そこから泥棒さながらに侵入し、床へ着きそのまま眠った。 二週間の旅、総移動距離は2000kmを越える。母を訪ねて3千里という作品があったが、千里の距離は約4000kmらしい。そう考えると500里程度だろうか。何を訪ねたのか500里。今だに旅をした理由は、正直自分でもよく分かっていない。ただ、それでも私は帰ったのだ。答えなんて後で探せばいい。 私は私を生きる。この旅から、これからも。
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