Prolog - I want to hold your hand.

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Prolog - I want to hold your hand.

 教室では、自習の時間だというのにカリカリと真面目な勉強音が響いている。  誰もが真剣に将来を見据えて勉学にいそしむ中、私は一人うとうとと舟をこいでいた。  ずるりとペンケースが落ちる音でゆるく覚醒した。  あ、と思う間もなく落下するはずだったペンケースは、ふわりと下から吹いた風によってふよふよと机の上に戻ってくる。不自然に浮かんだそれがきれいに卓上に着地するのを見届けて、私は席に座ったまま後ろを振り向いた。  ペンケースを落下の危機からすくい上げた少女は、私の感謝の言葉にやわらかい笑顔でどういたしましてと返す。  彼女の栗色のくせ毛がふわりと揺れて、窓の外には二つの太陽が浮かんでいた。
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