01 - What only you can do.

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「そんで、魔法大学首席卒業のエリート士官候補生サマのご活躍はどうだったんだよ。もう任務に出たんだろ? やっぱり訓練と本番は違ったか?」 「違った」  配属されて初めてのテロ制圧任務で最初に中佐に言われたのは、訓練と本番は違う、ということだった。  もちろんそんなことは分かっていたつもりだった。あの人は、魔法大学での模擬戦闘なんて何の役にも立たない、そこで覚えたことなんてすべて忘れろ、と言った。実際その通りだった。  敵は訓練通り、自分の予想通りになんて動かない。人質だってじっとしていない。追い詰められた素人は何をしでかすか分からない。  僕は助けるはずの人質に三回も任務の邪魔をされ、それ以降自分で計画を立てるということを放棄した。  レヴ大尉が透視魔法で状況を確認する。それをもとにレイラ中佐が作戦を立てる。それをエドアルド軍曹が通信魔法で団員に伝える。僕はそれを聞いて、自分の役割を達成することだけを考えて動く。  細かな状況判断と団員とのアイコンタクトは欠かさないが、人質のことはもうあまり気にしないことにした。  中佐の指揮能力はとびぬけてすばらしかった。  部下からもたらされる情報を的確に把握し、瞬時に最も有効な方法を見つけ出し、部下に最も適した役割を割り振る。それでいて自分は司令室に引っ込んでいるというわけでもなく、最前線で自ら駒となりレイピアを振るうのだから文句のつけようもなかった。  彼女が魔法を使うところをまだ見たことがないが、優秀なウィザードだと聞いているので魔法の腕もすばらしいのだろう。  中佐だけでなく、101旅団に所属する彼らは全員が優秀な軍人である。  団長補佐のレヴ大尉――上官のことはファミリーネームに階級をつけて呼ぶのが普通だが、101旅団ではファーストネームで呼ぶというのが団長の方針らしい――は透視魔法を操る凄腕のスナイパーだし、セルゲイ中尉は幻覚魔法と剣技をうまく組み合わせた優秀な剣士である。ダニール少尉に体術で敵うウィザードはそうそういないし、ヴォリア少尉は早撃ちの名手だ。エドアルド軍曹は貴重な通信魔法の使い手で、どこから情報を仕入れてくるのか軍内部だけでなく国家間の事情にも詳しい。  そして、全員が現場でしっかりと自分の判断で適切に行動することができる、というのが僕と彼らの一番の違いだった。 「やっぱ、最初から歩兵部隊に配属されると大変だろ。俺らみたいな平隊員はいきなり現場に放り込まれるなんてことないもんな」  普通、魔法大学を卒業して軍に就職したウィザードは、まずは現場に出ることなく後方支援などを担当する部隊に配属される。そうしてそこで仕事をこなしながら訓練を行い、数年間かけて軍曹まで昇進したらやっと現場に出られるようになるのだ。  しかし、魔法大学を優秀な成績で卒業した者の中で、最大十名の選ばれたエリートたちは、軍曹の一つ上の階級である士官候補生から始めることができる。最初からそれぞれ配属先の任務に同行し、現場に出ることもできる。  現場に出れば功績をあげる機会も自然に増え、昇進も早くなる。いわゆる出世コースであり、レイラ中佐もこのパターンで二十五歳という若さで一旅団の団長にまで収まっているらしい。それにしても彼女は昇進が速すぎると思うけど。 「まあ、気負いすぎんなよ。死なない程度に頑張ろう。俺もすぐに追いついてみせるから、あんまり先に行き過ぎないでくれ」  親友の軽口に少し笑って、食事を再開した。彼が話す同期たちの近況に耳を傾けながら、時折相槌を打つ。
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