01 - What only you can do.

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 翌日、僕は朝から軍の射撃場に来ていた。  トリメチル国軍中央司令部には、隊本部のある建物の他に二つの施設がある。一つは僕たち隊員が普段住んでいる宿舎であり、もう一つがこの訓練施設だ。  射撃場の他にも体術の訓練をする武道場、剣技を磨く剣道場、魔法のコントロールを強化する魔法修練場などが揃えられており、隊員たちが日々任務に備えて訓練に励んでいる。  一昔前といっても僕はすでに生まれている時代だが、ウィザードの軍事参画が本格化する前は、戦闘といえば火薬が主役だったらしい。人々は重火器を手にして戦地へ向かい、ボタン一つで国土を燃やすことのできる国が強いとされていた。  しかし、魔法が人目をはばからずに行使されるようになった今、戦地には体術と剣術がよみがえっている。主要な戦闘員はウィザードがほとんどであり、彼らが魔法を使って戦うにあたって近接戦闘の方が都合がよかったのだ。  射撃場に個室なんてものはなく、大きな部屋が薄いパーテーションによっていくつかに区切られているだけだった。  入り口近くの空いている場所に入り、荷物を置いた。右隣りには中年の男性がいて、大きなライフルを構えていた。  スペースはいたって簡素であり、銃を置くための台と標的となる人型の的がある。僕は鞄から拳銃を取り出し、的の正面に立った。  利き腕側の足を少し引く。利き腕は的に向けてまっすぐに伸ばし、逆の腕は利き手にそえるようにして握り込む。  的はそれほど遠くない。集中して引き金を引くと、弾は吸い込まれるように的に当たった。反動は少ない。何発か撃ったところで、後ろから声をかけられて顔をあげた。 「こんなところで会うなんて、奇遇だな、キリル士官候補生」 「ヴォリア少尉」  少尉も射撃訓練ですか、と尋ねると、彼はそうだよと言ってニカッと笑った。彼は明るくて気さくな性格で、年齢が比較的近いこともあって101旅団の中でも話しやすい先輩である。  国軍内での銃の早撃ち大会で上位に食い込んだこともある彼は、作戦の中でも中衛的なポジションで活躍している。同じく中衛で飛び道具を使う僕とは、必然的に協力することが多い。  せっかくだからと軽く指導してもらい、そこそこのところで切り上げることにした。
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