01 - What only you can do.

4/8
前へ
/13ページ
次へ
 思考が脱線したところで、インターホンが安っぽい音で来客を告げた。  家主の返事も聞かずにドアを開けて部屋に入ってきた男は、そのまま椅子に腰かけてくるりと振り返った。 「オッス! 飯食いに来た!」 「お前なあ。勝手に入ってくんなよ」  食事の匂いを嗅ぎつけてやってきたらしい友人は、ニヤニヤ笑いを隠そうともせずに心のこもらない謝罪を返した。  彼は魔法大学時代からの親友で、それぞれ魔法師団の別々の部隊に配属されてからも交流が続いている。宿舎の部屋も近く、こうして仕事終わりに夕飯をせびりに来ることも多い。  僕はどうせ作り置きするつもりでいつも多めに料理するので、文句も言わず食事を出してしまうのだ。まあ、時折食事代を請求しているけど。  完成した料理を二人分の皿に盛りつけ、テーブルに運ばせる。  彼はうまいうまいと上機嫌に食べていたが、半分ほど食べ進んだところでそういえば、と顔をあげた。 「お前、最近どうなの。上手くいってんの? 配属先あそこだったろ。例の……」  例の、というのは、僕の配属先である101旅団のことで間違いないだろう。そこそこだよと返すと、彼はまあそうだよなあと歯切れ悪くつぶやいた。 「お前が聞きたいのは『魔法師団の悪魔』のことだろ」  やっぱ分かる? と彼が苦笑いをする。  僕はといえば、ここ最近知り合いからそのことばかり聞かれるので、いまさら親友のミーハーな部分が判明しようとどうでもよかった。そんなに気になるものかな、とつぶやいた声が思いのほか愚痴っぽくなったのは許してほしい。  ミーハー心に忠実であるのは大いに結構だが、やはり自分の所属先を「例の」と称されるのはいい気分ではないのだ。 「噂ってどこまで行っても噂でしかないんだなって思ったよ。筋骨隆々なシルベスター・スタローンみたいな男ではなかったし、モリアーティ教授みたいなサイコパスってわけでもなかった。もっと言えば男じゃなかったし」 「嘘、女だったの⁉」  やっぱりみんな食いつくところは同じなんだな、と謎に感心する。  魔法師団に所属する軍人の個人情報は軍関係者以外には秘匿されており、それは魔法大学の学生にも同じことである。そのため就職先の情報は噂かホラ話からしか手に入らない。  学生の間で出回る噂の情報源は主に気さくな教官の本当かも分からないような雑談だが、いくら守秘義務があるといってももう少しくらい正確な情報を提供してほしかった。キャプテン・アメリカのような超人だと聞いたっていう学生までいたあたり、教授はわざと学生をからかって楽しんでいるのだろう。 「おんな。女かあ……」 「まあ、僕も初めて会った時は驚いたけど」  二十五階建てのビルをまるごと占拠したテロリストをたった一旅団で制圧したとか、そういう話ばかり聞かされていたらこの反応になるのは仕方のないことだ。  しかし、実際にあの人の部下として数週間働いた僕は、その話がただの噂話ではないことを知っている。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加