青春

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 数年後、少年は青年になっていた。彼はあの出来事以降、内的世界と向き合い、己を恥じることを知った。また、研鑽を積んだ。そして、背丈に合った関東の国立大に進学した。彼は、あれ以来、他者と接することを恐れるようになった。が、性格は、内面を恥じたことで、自愛の精神を忘却した代わり、他者に対して、卑屈ながらも、不遜(ふそん)な態度をとる心構えをしなくなった。  彼の心の傷は、青年となった今も(なお)()えることは無い。が、彼はこの傷心を消し去りたいとは思っていなかった。青年は時々、あの頃を回想し、ノスタルジアに浸ることで、傷心を更に、自らの手で(えぐ)っている。それは、彼が見出した唯一の贖罪(しょくざい)であると、彼自身は考えていた。しかし、青年は気づかない。この行為は単なる贖罪でないことを。彼は、おのれの傷を抉ることで、愁傷(しゅうしょう)を美化し、己を護っているのだ。そうでなければ、彼は自我を保つことができないほど、脆弱(ぜいじゃく)な心の持ち主であった。  彼は、今日幾つかの講義を受けた後、斜陽を受けながら、橙色に染まった帰路を、思索に(ふけ)りながら、漫然とした足取りで踏んでいた。今の彼には当時のような無垢な心は無かった。しかし、無垢でないにも関わらず、幼稚な価値観を捨てることはできていなかった。青年、もとい少年は、再び贖罪の(てい)を装い、自身に憐憫(れんびん)を覚えながら、過去を詩的に形容することに酔っていた。
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