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「本当ですよ、早希のことホントにお願いしますね」
「もちろんだ。君に心配かけないように精いっぱい努力すると誓う」
涙に潤んだ顔で睨まれる。
「絶対ですよ」
「ああ、絶対だ」
「絶対の絶対の絶対ですからね」
「ああ、わかってる」
「絶対ーーー」
「こら、いい加減にしろ。もう帰るぞ」
呆れた良樹の片手が高橋さんの口を塞ぎ、片手を腰に回してロックした。
抱え込まれた高橋さんは「んんー」と唸り手足をパタパタさせて抵抗しているが大柄な良樹に線の細い女性の彼女が敵うはずもなく。
「康史さん失礼しました。もう連れて帰ります。ーーま、でも谷口は俺の同期の友人でもありますからね、コイツの言うとおりアイツのこと大事にしてやってください。お願いします」
わかった、と深く頷くと
「じゃあ明後日の結婚式楽しみにしてます」
彼女を持ち上げるように抱えて副社長室を出て行った。
抱え上げられた高橋さんはというと、大いに不満だと言う表情を隠しもせずふくれっ面のまま会釈していった。
そんな彼女の姿に秘書の佐伯さんがまた驚いたようで
「気高き孤高の薔薇姫だと思ってましたけど、真の姿は可愛らしい女性だったんですねぇ。あれじゃ高橋君も即入籍するはずだわ」
ギャップ萌えする~と身悶えていた。
ーーー今日の午後はそんな出来事があったのだ。
そうしてやっと早希の待つマンションに帰宅したのだった。
タヌキの指示で早希は昨日から休暇を取っている。
休暇とはいっても会社に出勤しないだけで結婚式の最終確認とエステなどで忙しくうちの母たちに連れ回されているらしいから早希も相当疲れているはずだ。
早希のことが気に入っている俺の実家の面々は揃いもそろって早希のことを構い倒している。何度か注意をしているのだが、効果がないようだ。
案の定リビングのソファーでうたた寝している早希の姿を見つけた。
結婚式の前に二人の時間を持ちたかったが仕方ない。
式が終われば結婚休暇が待っているのだからあと二日の辛抱。明後日の夜になればゆっくりできるだろう。
ベッドに運ぶつもりでそっと抱き上げようとして早希の背中と膝裏に手を差し込むと早希の瞼がピクリと動き「う、ん・・・」と綺麗な唇からは甘い声が出た。
俺の女神、俺の宝物。
起こしてしまいたい衝動をなんとか抑えてそのまま抱き上げ寝室に運んでいく。
ゆっくりとベッドに下ろし腕を抜こうとしたら早希の手が俺のシャツを掴んだ。
「んー、お帰り、なさい」
「悪かったな、起こしてしまったか」
薄暗い室内のせいで早希の表情はしっかりとは見えないが、かなり眠そうだ。
「起きなくていいよ。疲れてるだろ、そのまま寝ればいい」
身体を起こそうとする早希を止めてベッドの端に腰掛けて彼女の髪を梳くように撫でる。
「はなしがあったの・・・」
「明日聞くよ」
「うん・・でも常務がね・・・私たちの休暇に視察の予定を・・・勝手に・・・・・・くっつけて・・・・・・」
相槌を打ちながら優しく撫でていたら早希の話し声はすぐに寝息に変わった。
やはりよほど疲れていたのだ。
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