疑義から確信へ

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「どういうこと? この前、ここで一緒に飲んでたんじゃ……」 「あー。あの時は……珍しく、あいつが文句を言いにわざわざ来ただけで。解らせてやったら、すぐに帰って行きました」 「ちょっと、やめなってー」 「やばくない?」 「……」  時が、止まったように感じた。何かがおかしい。どういうことだ?  思考の後ろでは女たち三人が未だにキャッキャと話しているのが聞こえる。 ─── 「悪い。仕事を思い出した。今日は帰るから、気を付けて帰って」  席を立ち会計を済ませ、俺は会社に戻った。  何かがおかしい。何かが、引っ掛かる。高嶺の花だから少しくらい妬まれるのは当たり前かと思っていたが、あの感じは少し異質だ。嫌われているだけで済んでいるようには思えない。  考えろ。  親父が昔俺に言っていた。  “疑義、追究、信認を忘れるな”と。  疑え。彼女を。彼女達を。俺自身の思い込みを。  デスクに座り、考え込む。  引っ掛かるものは、何か。何かがおかしかった。いや、最初からおかしいのかもしれない。  彼女は、何故冷めた顔で手紙を受け取った?  そんな子じゃないことは、もう分かっている。  彼女は、何故あの夜……俺にぶつかった夜、俺に冷たかった? そんな子じゃ、ないだろ。  最初から……  そうだ。  最初から!!  俺はガバッと立ち上がり、適当に引き出しに入れておいた袋を取り出した。そしてその袋から紙切れを取り出し、一つ一つ並べてゆく。最初のあの手紙だ。
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